月最終話 心を重ねて

城へ戻った私達を、従者さんが慌ただしく迎えてくれた。

私はヒノトさんの腕に抱かれたまま、城の客間へ通されることになり……

妖狐「憐れな娘よ。力が戻るまで、しばし休ませてやろう。 その命果てるまで、おまえは私のしもべとなるのだ」

寝具に横たえられ、声もなく彼の顔を見上げる。

(ヒノトさん……)

その時、部屋の外から声が聞こえてきた。

神官「ヒノト様、○○様のおかげんは……」

事件を聞きつけた他の王子や、神官の方達が様子を窺いにやってきた。

妖狐「心配かけたね。○○は大丈夫だよ」

ヒノトさん……妖狐は襖の前に立ち、皆の追及をやり過ごす。

妖狐「それに、森の封印は俺がちゃんと見てきたから。何も問題なかったよ」

神官「では、今年の神事は……」

妖狐「ああ、予定通り行う」

皆は妖狐の言葉を疑うことなく、安心して引き上げてしまった。

(違う……その人はヒノトさんじゃない)

妖狐に力を奪われた私は、起き上がるのもやっとの状態だった。

(……ヒノトさんの体を取り返さなきゃ)

わずかに身を起こせば、ポケットの中で何かがくしゃりと音を立てた。

(なんだろう……?)

ポケットに手を差し込み、その感触を確かめる。

(これは、森で拾った御札? もしかして、これを使えば……)

呪印の書かれた御札を忍ばせて、一縷の望みをかけた。

妖狐「やけにおとなしいな。気を失ったか?」

振り向いた妖狐が、興味なさげに問いかける。

私はわざと答えずに、力なく寝具に横たわっていた。

妖狐「やれやれ……これだから、か弱い人間は始末に困る」

息をひそめ、妖狐が近寄ってくるのを待つ。

(この御札の封印が、妖狐に効くかはわからないけど…―)

妖狐「こと切れる前に、もう一度若い娘の生気をいただくとするか…―」

そう言って、妖狐が私に覆い被さってきた瞬間……

○○「ヒノトさんっ……!」

妖狐「!」

私は妖狐の目前に御札を掲げ、封印を突きつけた。

けれど……

ヒノト?「……」

彼はじっと私を見据えたまま、何も起こらなかった。

(やっぱり、駄目だったの……?)

ヒノト?「うっ……!」

○○「ヒノトさん……!?」

ヒノトさんは苦しげに首元を押さえ、絞り出すように告げた。

ヒノト?「……○○、もう一度、その御札を……」

(この御札を……?)

私は御札を握りしめ、ヒノトさんに近づいた。

ヒノト?「そして……強く、祈って」

妖狐のものではない、ヒノトさん自身の声で語られる。

(ヒノトさん……!)

私は言われたとおり、御札を手に心から祈りを捧げた。

(物の怪を封じ、ヒノトさんを解き放って……!)

すると、ヒノトさんの体がまぶしいほどの光に包まれて……

妖狐「うう……ぐああっ!」

ヒノトさんの体から引き離された妖狐が、その身を現した。

ヒノト「……やってくれたね」

ゆらりと立ち上がり、ヒノトさんが妖狐に向き合う。

ヒノト「妖狐……人に取り憑き、国を滅ぼさんとする物の怪よ。 神剣を預かりし九曜の王子として、ここにおまえを封ずる!」

(あれが……神剣!?)

体を取り戻したヒノトさんが、床の間に飾られていた剣を手に妖狐をなぎ払い……

妖狐「ぐあああ……ッ!」

一閃を浴びた妖狐は、あえぐような断末魔を上げて消滅した。

ヒノト「くっ……」

○○「ヒノトさん……!」

膝をついたヒノトさんの元へ急いで駆け寄る。

ヒノト「……格好悪いなあ、俺」

私は涙をこらえながら、幾度も首を振る。

○○「ヒノトさん、無事ですか? 体は……」

ヒノト「○○……」

私を見つめる澄んだ瞳は、間違いなくヒノトさんのものだった。

○○「よかった、どうなっちゃうんだろうって、怖くて……」

ヒノトさんは眉尻を下げ、切なげに微笑んだ。

ヒノト「でも、大丈夫だったでしょ。 心配なら、君が確かめるといいよ」

そう言いながら、ヒノトさんは私の背中を引き寄せ……

息がかかりそうなほど近くまで、二人の距離が詰まる。

○○「ヒノトさんを信じていました」

ヒノトさんは私の頬を包むように、そっと手のひらを添える。

ヒノト「全く、君って子は……。 自分が危なかったのに、どうして俺の心配しかしないの」

○○「だって……」

ヒノトさんの温もりを感じ、こらえきれずに涙がこぼれ落ちる。

すると、ヒノトさんは優しい手つきで溢れる涙をぬぐってくれた。

ヒノト「俺の体で、他の女に手を出すところを見るのが嫌だったとか?」

(え……?)

悪戯な笑顔を向けられ、にわかに否定できずにいると……

ヒノト「君のそういうところが、愛おしくて仕方ないよ…―」

ヒノトさんの吐息が頬をかすめ、唇の端を短く吸い上げる…―。

それから、ついばむように幾度も私の唇を味わった。

○○「ヒノトさん……」

ヒノト「言っておくけど……さっきの口づけは、数の内に入らないから」

○○「さっきって……んっ…―」

言葉を遮るように、さらに深く口づけられる。

ヒノト「もう二度と、俺以外の奴とこんなことさせないから」

(よかった……)

彼の優しい笑顔が、私の心を幸せで満たしていく。

ようやく触れ合うことのできた、本当のヒノトさんの口づけは……

私の身も心も全部……彼に委ねてもいいと思えるほど、温かかった…―。

おわり。

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