月SS 二人きりの時間

少し冷たくなった夕暮れの風に乗って、賑やかな祭囃子が聞こえてくる…ー。

妖狐「王子の体か……思いの外、悪くないな。 それに、この王子は見目麗しい……たくさんのおなごを味わうことができそうだ」

(く……まるで体の自由がきかない)

神事の最中、森に封じられし物の怪が解き放たれ……

妖狐に体を奪われた俺は、成す術なく城へと舞い戻った…ー。

妖狐「憐れな娘よ。力が戻るまで、しばし休ませてやろう。 その命果てるまで、おまえは私のしもべとなるのだ」

俺の体を操りながら、妖狐が流暢な言葉を紡ぐ。

○○「……」

寝具に横たえられた○○は、悲しげに俺を見上げていた。

(このままじゃ、彼女が危ない)

(俺の体を使い、妖狐は九曜の国を滅ぼすつもりだ)

妖狐「……」

様子を見にきた神官達が去った後、再び妖狐が○○を振り返った。

けれど、青白い顔をした彼女はぴくりとも動かない。

妖狐「やけにおとなしいな。気を失ったか?」

(○○、どうしたんだ?)

俺は血の気が引く思いで、○○の様子をうかがう。

妖狐「やれやれ……これだから、か弱い人間は始末に困る」

うんざりしたように言い捨て、妖狐が○○に近づいていく。

妖狐「こと切れる前に、もう一度若い娘の生気をいただくとするか…ー」

(やめろ……!)

必死で妖狐を止めようとするも、やはり体の自由がきかず、妖狐が○○に覆い被さり、彼女の唇を奪おうとした時……

○○「ヒノトさんっ……!」

妖狐「!」

目前に掲げられた封印の札が、見えない光となって俺を貫き…ー。

次の瞬間、体が焼けつくような痛みに襲われた。

ヒノト「うっ……!」

○○「ヒノトさん……!?」

(声が、戻った……!?)

喉の奥に力を込め、かすれた声を絞り出す。

ヒノト「……○○、もう一度、その御札を……。 そして……強く、祈って」

俺の声を聞き届け、○○が御札を手に祈りを捧げた。

次の瞬間……

(体が、熱い……!)

物の怪に侵された体が清められるように、身の内からまばゆい光が放たれる。

妖狐「うう……ぐああっ!」

俺に取り憑いていた妖狐が体から弾きだされ、もんどり打って床に這いつくばった。

ヒノト「……やってくれたね」

体を取り戻した俺は、部屋に立てかけていた御神刀を引き寄せ……

(これ以上、好きにはさせない……!)

妖狐に向かい、しなる刀を容赦なく振り下ろす。

妖狐「ぐあああ……っ!」

とどめの一太刀をあびた妖狐は、塵となって闇に消えうせた。

(○○は……?)

ヒノト「う……」

妖狐に生気を奪われたせいで、力を保てずその場に膝をつく。

○○「ヒノトさん……!」

○○が慌てて傍に駆け寄り、俺を支えてくれた。

(○○に、九曜の祭りを楽しんで欲しかったのに)

(妖狐の呪いに彼女を巻き込んで、危険に晒してしまうなんて)

俺は呼吸を整えながら、○○にそっと微笑みかける。

ヒノト「……格好悪いなあ、俺」

○○は涙を浮かべながら、幾度も首を振ってみせた。

(心配かけちゃったみたいだね……)

まだ力の入らない腕を持ち上げ、○○の背中を緩く抱いた。

すると……吐息が触れそうなほど近く、彼女の瞳が迫る。

○○「ヒノトさんを信じていました」

○○は一片の迷いも見せず、じっと俺を見つめ返す。

ヒノト「全く、君って子は……」

呆れたような口ぶりとは裏腹に、彼女への想いが溢れ出す。

ヒノト「自分が危なかったのに、どうして俺の心配しかしないの」

○○「だって……」

安堵のせいか、○○の瞳からぽろりと涙がこぼれる。

(彼女はいつだって、俺を信じてくれる……)

二人が同じ想いでいると知り、心に温かなものが満ちていく。

ヒノト「君のそういうところが、愛おしくて仕方ないよ…ー」

俺は彼女の柔らかな唇をついばみ、触れるだけの口づけを繰り返す。

○○「ヒノトさん……」

ヒノト「言っておくけど……さっきの口づけは、数の内に入らないから」

○○「さっきって……、んっ…ー」

話をさえぎり、奪うように彼女の唇を塞ぐ。

夢中で口づけるほどに、頭の芯が甘く痺れていき……

ヒノト「もう二度と、俺以外の奴とこんなことさせないから」

頬を染めた○○が、意地らしく頷いたのを目にした後……

もう一度、甘えるように彼女の唇を求め、二人だけの時間を味わい尽くした…ー。

おわり。

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