その事件の後…-。
対立国から、友好条約を見直したいとの申し出があった。
証である書状を失くしてしまったこの国はその立場を弱くしてしまい、外遊から戻ったイリアさんを中心に、また話し合いが始まった。
ミヤはこの一件の責任を負い、謹慎処分を言い渡されていたのだった。
(どうして、ミヤは悪くないのに)
(私のせいで……)
王妃様に事情を説明しても、彼女は頑なにミヤの非を主張して譲らなかった。
(どうして……)
いてもたってもいられず、私はミヤの部屋に向かった。
兵士「○○様、お戻りください。ミヤ様は今……」
○○「わかっています……でも、私のせいなんです。 どうか、お願いします!」ミヤの部屋の前に立っている兵士さんに、深く頭を下げる。
兵士「……王妃様には、どうかご内密に」
○○「ありがとうございます!」
兵士さんが部屋から離れた後、息を大きく吸い込んで扉をノックした。
ミヤ「……誰?」
○○「ミヤ……私」
ミヤ「○○ちゃん!?」
扉が開き、ミヤが顔を覗かせる。
彼の顔を見ただけで、泣きそうになってしまう。
ミヤ「○○ちゃん。どうして……? あいつが気を利かせたんだね」
ミヤはそう言って、部屋から離れたところに立っている兵士さんに目をやった。
ミヤ「入って。 ごめんね、せっかく呼んだのにこんなことに巻き込んじゃって」
ミヤはいつものように笑いかけてくれる。
けれどその笑顔からは、あの太陽のような輝きは消え失せていた。
○○「本当にごめん、私のせいで……」
ミヤ「何度も言ってるけど、キミのせいじゃない。 それに、イリアも帰って来たんだ。 この件なんか、あっという間に片づけてくれるよ」
ミヤは、顔を上げて無理やり笑おうとする。
○○「ミヤ……!」
その表情に耐えきれず、気がつくと彼を抱きしめてしまっていた。
ミヤ「○○ちゃん……?」
○○「どうして……? ミヤは全然悪くないのに」
ミヤ「いいんだよ。オレがあいつをみすみす逃がしちゃったんだし」
ミヤが優しく私の背に手を回し、抱きしめてくれる。
ミヤ「○○ちゃんが無事だったんだから」
○○「ミヤ……」
ミヤ「ほら、そんな顔しないで。 笑顔のキミが、好きなんだから」
耳元で響くミヤの優しい声に、胸がトクンと跳ねる。
○○「……うん」
ミヤの悲しい顔を見たくなくて、彼の瞳を見つめながらなんとか笑ってみせると……
ミヤ「……やっぱり、キミだけは渡したくないな」
○○「え?」
つぶやくようにミヤがそう言ったかと思うと、急に私を抱きしめる彼の腕の力が強くなった。
ミヤ「○○ちゃん、イリアには……会った?」
○○「ううん……」
ミヤ「会わないでほしい」
○○「え……?」
ミヤ「イリアはね、本当にすごいんだ。 頭も良くて、なんでもできて、父上や母上からの信頼も厚い。 ああいうのを、王子様って言うんだろうね。 キミと会わせたら、オレなんかよりイリアがいいって思うんじゃないかって……。 カッコ悪いね、オレ」
○○「ミヤ……」
ミヤはゆっくりと腕から私を離して、震える手で私の指を握った。
ミヤ「他のことは全部負けてもいい……でも、○○ちゃんだけは譲れない。 例え……イリアにだって……」
(ミヤ……)
ミヤ「○○ちゃんにもオレを選んでほしい。イリアじゃなく、オレが一番だって……。 そう言ってほしいんだ……」
○○「ミヤ……」
(真剣な、瞳……)
ミヤの瞳に、にっこりと笑いかける。
○○「別の誰かの方がいいなんてないよ、ミヤ」
ミヤ「○○ちゃん……」
○○「だって……私を守ってくれて、笑顔にさせてくれて、ずっと一緒にいてくれたのはミヤなんだから」
(そこにいるだけで太陽みたいに周りを暖かくさせて)
(でも、本当は一生懸命輝こうと頑張っているミヤ……)
○○「ミヤが、大好きだよ」
ミヤ「……ありがとう」
ほんの少し離れて、深い空色の瞳が揺れながら私を見つめる。
ミヤ「オレ、頑張るよ。 ○○ちゃんの心を、イリアに奪われないように」
ミヤが太のように笑い、その輝きに私の胸が甘く軋む。
(まぶしいよ……ミヤ)
月のない夜に……私の瞳は、ミヤの笑顔に魅せられていた…-。
おわり。