城に戻って来ると、メイドさんが嬉しそうにミヤのところへやって来た。
メイド「ミヤ様、イリア様がお戻りになるそうですよ!」
ミヤ「え……イリアが?」
メイド「はい。先ほど連絡があり、数日中にはお戻りになられると!」
ミヤ「そっか」
嬉しそうにミヤが笑う。
その笑顔とは裏腹に、彼の体がこわばっていくのがわかった。
(ミヤ……)
ミヤの胸の内を思って、思わずそっと彼の腕に触れた。
ミヤ「ありがとう。大丈夫だよ。 でも……」
ミヤが何かを言いかけたその時…-。
王妃「ミヤ」
王妃様と大勢の従者さん達が、廊下を通りかかった。
王妃「イリアが帰ってきます。あなたもすぐに、出迎えの準備を」
ミヤ「母上、その前にご報告が。 先ほど森で、対立国の魔術師と思われる怪しい男に出会いました。 イリアを探しているようです。すぐに警備の強化を」
王妃「対立国の……? けれど、あの国とはイリアが友好条約を結んだでしょう? 事は穏便に運んだと報告を受けています。あなたの勘違いではなくて?」
(そんな……)
ミヤ「しかし……」
王妃「まあいいわ。念のため兵士長には伝えておきます。けれど……。 あまりイリアを、惑わせないで頂戴ね」
ミヤ「……はい」
王妃様はそう言って、銀色の髪をなびかせながらその場を去った。
○○「……ミヤ」
ミヤ「よかった。これであいつも迂闊なことはできないよ」
ミヤがほっとしたように息を吐く。
ミヤ「けど……」
ミヤが踵を返し、私の真正面に向き直る。
(ミヤ……?)
私を見下ろすミヤは、今までに見たことがない真剣な表情をしていた。
ミヤ「オレがキミを、守るから。 例えイリアが帰って来ても、オレが」
○○「ありがとう、ミヤ……」
切実な声に、私はそれ以上何も言えなくなってしまった。
…
……
その夜…-。
ミヤの真剣な表情が頭から離れず、寝つけずにいた。
(ミヤ……大丈夫かな)
その時、カタンと部屋の外で物音が聞こえた。
(何だろう?)
不思議に思い、恐る恐るドアを開け廊下に出てみると……
しんとしずまり返った廊下の窓から、月明かりが静かに漏れているだけだった。
ほっと胸を撫で下ろし、部屋へ戻ろうとすると……
??「昼間、ミヤ王子といた女か」
その声に驚いて振り返った瞬間、私の体は渦巻く闇に捕らえられた。
○○「あ、あなたは……!?」
闇から現れたその男は、昼間私とミヤの前に現れたあの魔術師だった。
魔術師「まあ誰でもいい……少し体を借りるぞ」
その瞬間、私を捕えている闇が体の中に入ってきて……
(……!?)
体の自由がきかなくなってしまい、魔術師も姿を消してしまった。
??「そのままイリア王子の部屋へ行け」
(頭の中で、声がする……)
意志とは裏腹に、私の足はイリアさんの部屋へと歩み出した……
イリアさんの部屋の前にたどり着くと、警備兵が立っていた。
警備兵「○○様、こんな夜中にどうされましたか?」
○○「逃げてください……!」
警備兵「え……?」
私の手から火の玉が生まれ、それが兵士さんに向かって飛んでいく。
警備兵「うわあっ!!」
兵士さんは、その場に倒れ込んでしまった。
○○「やめて!!」
魔術師「たわいもない。魔術大国ソルシアナの名が、聞いて呆れる」
○○「あなたは、何が目的なの……!?」
魔術師「お前の知ったことではない」
○○「……っ」
私の手がイリアさんの部屋の扉を開けようとした、その時……
ミヤ「書状はこっちだよ」
魔術師「ミヤ王子……!」
再び空間に闇が渦巻き、魔術師がその姿を現した。
ミヤ「友好条約締結の書状だ。お前はこれが欲しいんだろ?」
魔術師「それをよこせ!」
魔術師の手から火の玉がほとばしり、ミヤに向かって放たれる。
○○「ミヤ!」
ミヤ「……!」
けれどミヤが手を振りかざすと、火の玉は静かに跡形もなく消え去った。
ミヤ「あれ、できちゃった。オレ、案外才能あるのかもね」
ミヤが肩をすくめる。
魔術師「くそ……!」
魔術師は悔しそうに舌打ちしたが、またぶつぶつと呪文を唱え始めた。
○○「え……!」
ミヤ「○○ちゃん!」
闇が私を取り巻き、締めるように首にまとわりつく。
(息が、できない……!)
ミヤ「……その子を放せ!」
魔術師「ミヤ王子、それを渡せ」
ミヤ「……」
ミヤが、書状を持つ手にぐっと力を込める。
○○「ミ…ヤ……駄目……」
ミヤを止めようと声を出そうとすると、
○○「……っ!」
私の首を締めつける力が、強くなった。
ミヤ「○○ちゃん! くそ……ほら! お前の狙いはこれだろ! 早くその子を放せ!!」
ミヤが手にした書状を床に投げると、すぐに魔術師はそれを拾い、闇とともにその姿を消した。
それと同時に、締めつけられていた喉に空気が通るようになる。
ミヤ「○○ちゃん!」
ミヤが咳き込む私に駆け寄り、体を支えてくれる。
○○「ごめん……私の、せいで……」
ミヤ「キミのせいじゃないよ」
私の肩を抱きながら、安心させるように頬を撫でてくれる。
その手の温かさに、切なさがこみ上げていった…-。