月最終話 優しい力

ユリウス「……っ」

観衆1「ユリウス様、気が焦ったか!」

体勢を崩したトールくんにユリウスさんはとどめを刺さず、試合は振り出しに戻った。

武器を構え直したユリウスさんとトールくんの間に、張りつめた空気が流れている。

(ユリウスさん、トールくんをかばって……)

イリア「ユリウス王子、水の攻撃魔法を打ちます!」

ユリウス「ああ、行くぞ……!」

ユリウスさんがニヤリと口角を上げ、走り出す。

武器がぶつかり合う激しい音が響き、青と金色の光が会場を包む。

(頑張って、ユリウスさん……!)

ユリウスさんの真剣な横顔から、目を離すことができない。

その時、ミヤの攻撃がイリアさんの足を払って……

バランスを崩したイリアさんに、稲妻が放たれた。

ユリウス「危ない……!」

ユリウスさんが、とっさにイリアさんの前に出る。

大剣を振りぬいて発生させた水流に稲妻は吸収されたけれど…―。

ユリウス「……!」

隙をついたトールくんのハンマーが、ユリウスさんの大剣を払い落とした。

そして次の瞬間、扱う人の手を離れた大剣に稲妻が落ち、鈍い金属音が場内に響き渡る…―。

○○「……っ!」

息を呑んで見守っていた観衆達に、緊張が広がって…―。

審判「勝者はトール王子、ミヤ王子!」

無情にも、審判の声が響き渡った。

観衆「わああああああ!!!!」

闘技場は立ち上がった観衆の声に包まれたけれど、私はユリウスさんを見つめたまま動けずにいた。

ユリウス「……」

ユリウスさんは呆然と、足元に転がる壊れた大剣を見つめていた…―。

……

ドアを開けると、室内いっぱいに寂しげな茜色がにじんでいた。

○○「失礼します……」

ユリウス「……よう」

ユリウスさんはベッドの縁に座り、ゆっくりと視線を上げた。

切なげに微笑んだその頬には、表情を隠すように夕陽が影を落としている。

○○「お疲れ様です……あの……」

かける言葉に迷っていると、ユリウスさんは自分の隣をぽんと叩いた。

私は静かに、彼の隣に腰を下ろす。

短い沈黙の後、ユリウスさんが静かに口を開いた。

ユリウス「お前に頑張るとか言っといて……情けねえな」

○○「そんなこと……」

彼の沈痛な横顔に、思わず言葉を飲み込んだ。

膝の上で組んだ手は硬く握られていて、いまだに緊張感が漂っている。

ユリウス「あの時とどめを刺せなかった自分に、嫌気がさす」

トールくんが体勢を崩した時に一瞬ためらったユリウスさんの姿が浮かんだ。

ユリウス「武器の力がどんなに強くても、使い手が弱けりゃ力は発揮できねえ。 オレはどこかで、大きな力を怖がってた」

(ユリウスさん……)

戦争の傷を抱えて苦しむ彼にどんな言葉をかけていいか、判断に迷う。

○○「……ユリウスさんが戦っている姿は素敵でした」

言葉を選びながらそう言った私に、ユリウスさんが力なく笑った。

ユリウス「ありがとな。でも……」

ふっと自嘲するような笑みに、心が痛む。

ユリウス「皆をがっかりさせちまった。観衆も……イリア達もお前も……」

そっと顔を上げたユリウスさんと、視線が絡む。

その瞳には言いしれないほどの悲しみが宿っていて、私の胸をひどく締めつける。

(ユリウスさんはあんなにも強いのに本当はこんなにも……)

込み上げる感情に、私は思わず……

 

ユリウス「……!」

彼に唇を寄せ、そっとキスをする。

ユリウス「お前……」

○○「ごめんなさい。でも……こうせずにはいられなくて。 私は、がっかりなんてしませんでした。 ユリウスさんの力はとても優しくて安心できる力だって……そう感じました」

私を見つめていたユリウスさんが、切なげにつぶやいた。

ユリウス「気弱なこと言って気遣わせちまって、悪い」

○○「いえ、そんなこと…―」

ユリウス「やっぱり……悔しいな。 一番守りたい女に、こんなにも弱音を吐いちまうなんて……」

悲しげなその声に、私は体を起こし首を横に振った。

○○「弱音、吐いてください。ちゃんと聞きたいです。ユリウスさんの気持ち……」

そっと冷たい頬に触れると、ユリウスさんの唇から絞り出すように言葉がこぼれ落ちた。

ユリウス「悔しい……やっぱ、負けるのは悔しいよ。 お前の前では、誰よりも強い男でありたいのに」

かすれるような声が切なくて、私は彼の漆黒の髪に指を通す。

○○「ユリウスさんは誰よりも強いです。それに、優しい……」

ユリウス「……○○」

ユリウスさんは驚いたように私を見つめた後、ふっと微笑んだ。

ユリウス「優しいのは、お前の方だよ」

絞り出すようにそう言ったユリウスさんの瞳が切なげに細められ……

○○「……っ」

ふわりとベッドに押し倒される。

ユリウス「……今日は、その優しさに甘えてもいいか?」

小さく頷くと、ユリウスさんの唇が強引に私の唇を割る。

○○「……んっ」

熱い吐息が二人を包んで……

甘えるように私を抱きしめる彼の力強い腕が愛おしくて、私は目を閉じ身を委ねた…―。

おわり。

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