月7話 ためらいの瞬間

翌日…―。

戦いの火蓋が切られる瞬間を、大勢の観衆達が今か今かと待ちわびている。

ユリウス「……○○」

私に気づいたユリウスさんが、驚いた様子で近づいて来る。

ユリウス「お前、そんな前で見るのか?ここ、一般席だろ」

○○「はい。来賓席は上の方で少し遠いので……ユリウスさんの試合、近くで見たいと思って」

ユリウス「そっか。危険はねえと思うけど……」

ユリウスさんは、そっと眉根を寄せる。

(試合前に、余計な心配させちゃったかな)

○○「……」

ユリウス「そんな顔すんなって……近くで応援されたら、緊張するって思っただけだ」

ユリウスさんの顔が微かに赤くなり、つられるように私の頬も熱を帯びる。

アナウンス「間もなく試合開始となります。お席をお立ちのお客様は…―」

試合開始のアナウンスが流れ始め、ユリウスさんの表情が引きしまった。

ユリウス「……行ってくる」

○○「頑張ってくださいね」

ユリウスさんが、そっと私の手に触れる。

その指先はひやりと冷たくて…―。

(ユリウスさん……?)

ユリウスさんは凛と背筋を伸ばし闘技場へと向かったけれど……

得も言われぬ不安が、刹那に私の胸を襲った…―。

……

ユリウスさんとイリアさん、そしてトールくんとミヤ……4人の試合は、接戦を極めていた。

トールくんがハンマーを構えると、ミヤの魔術によりハンマーに稲光が宿る。

ユリウス「……!」

振り下ろされたハンマーから放たれた鋭い閃光が、ユリウスさんに襲いかかり……

間一髪、大剣を盾にして攻撃をかわした。

イリア「ユリウス王子!防御魔法を使います……!」

イリアさんが魔法詠唱を始め、ユリウスさんの持つ大剣に青い光が宿る。

ミヤ「ここが攻め時……ってね!」

ユリウス「させねえよ……!」

ユリウスさんが大剣を振りぬいた瞬間、斬撃が氷の壁となり、トールくん達からの攻撃を防ぐ。

トール「まだまだ……!」

イリア「くっ……!」

相手の波状攻撃に苦しみながらも、ユリウスさん達は確実に防御していた。

観衆1「ユリウス様チームは守りが固くて、トール様チームは攻撃力がずば抜けてる」

観衆2「これは長い闘いになりそうだな……」

どちらも一歩も譲らぬ展開で、会場は大いに沸いていたけれど……

ユリウス「イリア、水を!」

イリア「準備はできています。さあ……!」

イリアさんが呪文を唱え、大剣がひときわ強い光を放つ。

ユリウス「このまま行くぞ……!」

トール「ミヤ、来るぞ!俺達も撃つ!」

ミヤ「よし、行くよ~!」

トールくんが構えたハンマーに、大きな音を立てて稲光が吸収されていった次の瞬間…―。

そのすさまじいパワーに押されるように、トールくんの足元がふらついた。

ユリウス「……!」

ユリウスさんの目の前で体勢を崩したトールくんを見て、会場全体が息を呑んだ。

ユリウスさんは、大きく大剣を振りかぶったけれど…―。

ユリウス「……っ」

ためらうようにその手が止まる。

(ユリウスさん……?)

そして…―。

大剣は大きく空を切り、水しぶきだけが大空に舞い散った。

観衆1「ユリウス様、気が焦ったか!」

絶好のチャンスを逃したユリウスさんに、周囲から落胆の声が上がる。

(違う。今、ユリウスさんは……)

体勢を立て直したトールくんのハンマーに、また黄色い閃光が宿る。

顔色を変えることなく大剣を構え直したユリウスさんに……

私の胸は、ばくばくと不穏な音を立て始めていた…―。

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