月SS お前がくれた勇気

薔薇園で〇〇から告白を受けた後…-。

俺は部屋で一人、月を見ながら同じことをずっと考え続けていた。

(ただでさえ、いろいろ助けてもらった挙句……)

(告白の返事もしないまま、結局変な空気にするなんてな)

自己嫌悪と情けなさに、思わず深いため息がこぼれ落ちる。

告白の返事は、自分の中ではもう決まっていたのに…-。

(こんな俺が、本当に〇〇を幸せにできるのか……)

そんな恐れが、あの時俺の言葉を止めてしまった。

シュティマ「でも……〇〇はきっと、こんな言い訳聞きたくないよな」

(それに、彼女が他の男のものになっていいのかと言われたら……)

シュティマ「……それだけは、絶対に嫌だ」

歌劇本番は明日だというのに、彼女のことばかり考えてしまう。

(集中しなければ……)

仮面の男になりきって、俺は歌劇の台詞を紡ぐ。

シュティマ「……『今宵、貴方に魔法をかけましょう。私の歌を……聴いてください』」

(これは…-)

自分の声が、まるで違う誰かのもののように聞こえた。

シュティマ「『私は貴方に見つけてほしいと願いながらも、この仮面に卑しい心を隠したかったのです』……『臆病な、私の本性を…-』」

台詞に今までにない魂が込められていくのがわかる。

シュティマ「『貴方のために歌いましょう。私には今、それしかできないから』」

(〇〇のために、俺にできることは……-)

彼女への想いを胸に抱き、俺は仮面の男の歌をうたい続けたのだった…-。

……

歌劇の終了後、俺は〇〇が座っていた席に向かった。

俺は改めて自分の気持ちを伝えようと、あいつの隣に座り、手を伸ばした。

シュティマ「お前が俺に好きって言ってくれた時、本当は嬉しかったんだ」

(あの時も、そう言って抱きしめたかった。ただ……)

シュティマ「でも……それ以上に不安だった。こんな俺が、本当にお前を幸せにできるのかって。 お前は……本当に清廉で、優しくて。俺はいつも助けられてばかりだからな」

偽りのない弱さも晒し、俺は〇〇を見つめる。

シュティマ「でも、気づいたんだ。 それは、自信のない自分を誤魔化すための言い訳にすぎないんだってことに」

(そして、そんな言い訳をして……お前を手放したくないってことに)

頬を染める〇〇を見ていると、俺まで少し恥ずかしくなってくる。

でも、もう誤魔化したりはせず……精一杯の言葉を紡いだ。

シュティマ「今まで、自信がないせいで……言いたくても言えないことが多くて、後悔することもたくさんあった。 でも、お前への気持ちを自覚した時に……お前のことでは後悔したくないと思った」

(他の何を譲っても……譲りたくない)

(そう初めて思えたのが、お前なんだ)

シュティマ「その想いが、俺に勇気をくれたんだ。ありがとう……〇〇」

愛おしさと幸福感が入り混じって、つい口元がほころんでしまう。

シュティマ「お前が傍にいてくれて、本当によかった」

〇〇「そんな……私の方こそ」

〇〇が瞳を潤ませながら、小さく首を横に振る。

その健気な様子に、俺はいっそう鼓動が速まることを感じていた。

(……だけど、まだだ。まだ、肝心な言葉を言ってない)

自分を落ち着かせるために、深呼吸をする。

そして改めて彼女の目をまっすぐに見つめて…-。

シュティマ「あの時のお前の言葉に、俺はまだ返事ができてなかったから……今、改めて言わせてほしい。 好きだ。お前のことが……誰よりも」

〇〇「……っ」

〇〇が感極まった様子で息を呑む。

俺は自分よりもずっと小さな手を、静かに握りしめた。

シュティマ「もどかしい思いをさせてすまなかった。 これからもいろんなことがあると思う。でも、男として……何より恋人として、お前をずっと守るから。 俺の傍にいてほしい」

願いを込めて、彼女の頬に手を添えた。

(もう何があっても、お前から目を逸らさない)

(お前の言葉から逃げない。だから……)

彼女の唇にゆっくりと口づける。

(……今の俺にはこれが限界だ)

(でも……これから少しずつ、進んでいこう)

すると、そんな心の声に応えるかのように、抱きしめた彼女の腕が俺の背中に回って……

〇〇「嬉しいです、シュティマさん……」

(前言撤回だ、やっぱり俺は……)

シュティマ「ごめん…-」

(今すぐに、もっと〇〇に近づきたい)

今度はさっきよりも長い間、彼女の唇に口づけた。

シュティマ「〇〇、ありがとう」

顔を赤らめながら、嬉しそうに微笑む〇〇を抱きしめて……

俺は彼女との時間に、今までにない幸福感を覚えるのだった…-。

おわり。

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