月最終話 空腹が気にならない

賑やかな晩餐会の中、人々は劇中に出てきた料理さながらのご馳走を堪能している…-。

グラッド「俺と一緒だから……?」

ぽつりとつぶやいた彼の頬が、ほのかに赤く染まっていく。

グラッド「俺と一緒だから美味いのか?」

〇〇「う、うん……」

頷くと、グラッドくんの頬がますます赤くなっていく。

グラッド「なんか変だ……あんたにもらったクッキーとか、あんたの言葉とか……。 あんたのことを特別だって思うと、空腹が気にならなくなるっていうか」

〇〇「……!」

(特別……)

不意打ちのような言葉に、胸が大きく跳ねる。

グラッド「あんたも俺のこと……そう思ってくれてるってことか?」

グラッドくんの言葉が途切れる度に、胸が高鳴るのを感じる。

〇〇「私は…-」

鼓動が邪魔をして、上手く言葉を紡げずにいると……

グラッド「……俺、あんたの特別になりたい」

まっすぐに見つめられ、心に甘い感情が広がっていく。

(グラッドくん……)

すると突然、グラッドくんがお皿にのっていた料理を勢いよく食べ始めた。

〇〇「グ、グラッドくん?」

あっという間にすべて食べ終えると、彼は私に向き直った。

グラッド「今日は帰る。用事ができた」

〇〇「え?」

彼の突然の言葉に、思わず大きな声を上げてしまった。

(急に、どうしたんだろう?)

グラッド「明日、あんたを迎えにいくから待っててほしい」

〇〇「う、うん……」

困惑しながら頷くと、グラッドくんが嬉しそうに口角を上げる。

(何を思いついたのかはわからないけど……)

グラッドくんの表情に、胸がトクトクと高鳴り始める。

戸惑いと期待を抱え、私は彼の背中を見送ったのだった…-。

……

翌日…―。

グラッドくんの従者さんが、私を迎えに来てくれた。

案内してくれたのは、お客さんのいないレストランだった。

(ここにグラッドくんがいるって言っていたけど……)

席についてグラッドくんを探していると、後ろから足音が聞こえてくる。

振り返ると、そこにはトレイを持ったグラッドくんの姿があった。

〇〇「グラッドくん!?」

グラッド「今日はあんたのために用意した」

グラッドくんは、慣れない手つきでテーブルにトレイを置く。

すると、そこには色とりどりのスイーツが並べられていた。

〇〇「わあ……! あ、これって」

グラッド「ん。あの歌劇の中で、ヒロインが食べていたスイーツだ。 あんた、昨日のパーティで、料理を見てる時かわいい顔してたから」

(……かわいいって)

さらりと告げられた言葉に、驚きながらも喜びを隠せない。

すると、私の隣にグラッドくんが腰を下ろした。

フォークを手に取ってスイーツに突き刺すと、私の口元に近づけてきて……

グラッド「俺にもう一回、あの時の顔、見せてくれ」

〇〇「!」

驚きに打たれていると、グラッドくんの瞳が微かに揺れる。

グラッド「食べたくないか?」

〇〇「う……ううん!」

慌てて口を開けると、グラッドくんが食べさせてくれた。

〇〇「……おいしい」

甘い香りが口いっぱいに広がって、幸せな気持ちに包まれる。

グラッド「そっか」

グラッドくんが、安心したようにほっと小さく息を吐く。

〇〇「グラッドくん、このスイーツはどうしたの?」

グラッド「ヴォックスの料理人に頼んで、一緒に作ってもらった」

〇〇「えっ、グラッドくんが作ったの!?」

思わず大きな声を出すと、グラッドくんが目を丸くした。

グラッド「そんなに驚くことか?」

〇〇「……うん」

(だって、グラッドくんは食べること以外には興味がなかったし……)

グラッドくんは、照れくさそうな顔で視線を逸らす。

グラッド「あんたは、俺と食事してると、おいしく感じるって言った。 俺もあんたと一緒に食べると、今まで感じたことのない感情が湧いた。 俺は……この感情をもっと味わいたいし、あんたにも味わってもらいたい」

不器用に紡がれた言葉が、私の胸にしっかりと響く。

(そんなことを思いながら、作ってくれたんだ……)

視線が交じり合うと、彼は愛おしいものを見るように目を細めた。

グラッド「だから……俺はこれからもあんたと一緒に食事をしたい」

真摯な言葉が、胸を打つ…-。

視界がにじみそうになるのをこらえ、私は彼を見つめ返した。

〇〇「グラッドくん……私も」

彼は嬉しそうに微笑むと、もう一度私の口元にスイーツを運んだ。

〇〇「本当においしい……ありがとう、グラッドくん」

グラッド「なあ。あの歌劇、もう一回観たい」

〇〇「え……?」

唐突な言葉に、目を瞬かせると……

グラッド「今ならもうちょっと、わかる気がするから。 好きな奴が傍にいて、満たされるって気持ち」

〇〇「……うん!」

彼の言葉が、甘いスイーツが私の心を幸せな気持ちで満たしていく。

次にグラッドくんと観る歌劇が楽しみで、今からもう待ちきれなかったのだった…-。

おわり。

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