月8話 悩んでも……

国王様達の持ちかけた私とルルスの婚約話が、親子の間に大きな断絶を作った…ー。

それからというもののルルスはラボに一人閉じ籠るようになった。

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ルルス「悪い、あんなこと両親に言わせて、お前に合わせる顔がない……」

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(ルルス、最後に会った時はああ言ってたけど……)

ルルスはもう今日で丸3日間、ラボから出てきていない。

(さすがにこのままじゃ……)

窓の外を見れば、すでに空は茜色に染まっている。

私はその場に留まっていることが苦しくなり、彼のいるラボへと向かうことにした。

〇〇「ルルス? 中にいるんですか……?」

ラボの扉を叩いても、返事はない。

私は少し待ってもう一度扉をノックした。

すると、少し間があって……

ルルス「……〇〇か?」

〇〇「ルルス!」

まるで今目覚めたばかりのような声が聞こえて、私は扉をゆっくりと開いた。

久々に訪れた彼のラボは以前よりもさらに雑然としており、

床には足の踏み場もないほどに彼の筆跡の残るメモが散らばっていた。

〇〇「ルルス……大丈夫ですか?」

部屋の中央にあった机の上に突っ伏していたルルスが顔を上げる。

その表情は完全に精彩を欠いており、まるで別人のようだった。

ルルス「大丈夫……どうなんだろうか。アイディアも数式も何も思い浮かばない。こんなのは初めてだ……。 エリクシールを父上と母上が異常なほど欲しがっているのは、知っていたのに……」

〇〇「……」

数日前に国王様達が彼に向かって投げかけた言葉を思い出す。

ーーーーー

王妃「エリクシールさえ手に入ればもう精霊の国の力などに頼ることもないのですよ!?」

国王「ルルス! お前のプライドが、国より大事なものだと言うのか!?」

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(ずっと努力し続けてきたのに……あんなこと言われたら)

彼の胸中を思い、何も言えずにいると……

ルルス「何も言わないんだな」

〇〇「え…ー」

ルルス「エリクシールをあんなに作りたがってて、なんで力を借りないのかって」

〇〇「それは……。 ルルスの気持ちを考えたら、わかります」

目の下の隈、大量の記録や書物、薬品で荒れてしまった手……

(全部、ルルスは一人で努力してきたんだ)

(誰に理解されなくても、誰にも頼らずに一人で……)

ルルス「ありがたいよ。それでいて少し惨めな気持ちだ」

〇〇「そんな…ー」

私の言葉を待たず、ルルスは自嘲気味に微笑んだ。

ルルス「お前の言った通りだ。 エリクシールを精製すること自体が、オレの目的だった。 けれど、もし精製に成功したエリクシールが人を不幸にすることに使われたら? 父上や母上の言葉を考えたら、これまで精霊の国と結んできた友好関係だって、今後どうなるか……。 そう思うと、頭の中が真っ白になったんだ」

うめくようにつぶやいて、ルルスは机の上にあったメモを握りしめる。

〇〇「ルルス……」

この部屋で何度も見た、研究に向き合うルルスの姿を思い出す。

〇〇「エリクシールを追い求めて研究を続けるルルスは、すごく輝いてた。 ルルスの錬金術が人を豊かにしていることだって、私は知ってる。 だから……エリクシールだってきっと、ルルスが作るなら人々を幸せにすることができるはずです」

伝えるつもりのなかった言葉が自然と私の口からこぼれた。

ルルス「〇〇?」

その時、ようやくルルスが私の顔をしっかりと見た。

彼は憔悴しきった顔で、不思議そうに首を傾けている。

〇〇「あ……今のは、その……」

ルルス「……そうか、お前はーー」

〇〇「……っ!」

彼の手が私に伸びてきて、ゆるく私の指先を握った。

けれど開きかけた口が堅く結ばれてしまう。

(今、なんて言おうとしたの……?)

飲み込まれた言葉の先が気になって、じっと続きを待つ。

けれど彼は私の手を握ったまま、再び机に突っ伏して……

〇〇「……」

結局その日は、それ以上何も話ができないまま私と彼は別れた。

けれど彼に握られた指先には彼の体温がずっと残っていたのだった…ー

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