月SS 初めてのわがまま

空に美しい月が浮かぶ、静かな夜…-。

(アイツ、どうしてっかな)

オレは月を眺めながら。〇〇のことを考えていた。

―――――

カラン『〇〇様、私とお付き合いをしていただけませんか』

〇〇『えっ……』

リド『……』

―――――

真剣な顔つきの兄貴を見て、〇〇に想いを告げるんだろうと気づいてはいたものの……

自分の気持ちにも気づいていたオレは、兄貴の告白は見ないふりでやり過ごした。

(兄貴の邪魔なんて……オレにはできないもんな)

(けど……)

考えれば考えるほど、胸のもやもやが増していった。

(いけねえ……もう、〇〇のことを考えるのはやめよう)

(大丈夫だ、兄貴ならきっと幸せにしてくれるさ)

頭でそう思い込むけれど、胸がどうしようもなく疼くばかりで……

リド「……っ。 あーくそっ!」

苛立ちから、思わず手近な壁を殴りつけてしまう。

(オレは、何を望んでるんだ)

(アイツに、兄貴じゃなくオレを見て欲しいだなんて……)

自分の気持ちに辟易していたその時…―。

(ん……?)

部屋にノックの音が鳴り響いた。

〇〇「リド? 私……入っていい?」

(〇〇!?)

ずっとオレの頭の中を支配していた彼女から声をかけられ、心臓が飛び上がる。

けれどもオレは、努めて平静を装い…-。

リド「ああ……」

扉の向こうにいる〇〇に、そう一言だけ返事をする。

……

リド「……どうしたんだよ、もう遅いぞ」

オレは彼女と視線を合わせられないまま、ぽつりとつぶやく。

〇〇「あのね、リド……。 その……カランさんのこと……」

(……!!)

〇〇の言葉に、またも心臓が飛び上がる。

けれどもあくまで表情には出さず、努めて平静を装いながら口を開いた。

リド「……いいじゃねえか、兄貴の申し出だぜ? 本気であんたに惚れてる……大事にしてくれるよ」

言葉を紡ぐ度に、胸に刺すような痛みが生まれる。

(……こんなこと、今までなかったのに)

(いつも、なんだって我慢できたのに、どうして……)

オレは今までにない胸の痛みをどうにかしてやり過ごそうとする。

けれども、その時…-。

〇〇「リドは私とカランさんが、お付き合いしてもいいの?」

彼女はそう言うと、慌てたように両手で口を押えた。

(……は……?)

(んなわけ、ねえだろ……!)

胸の痛みが、そのまま憤りへと変わっていく。

(どんだけ嫌だって思ったところで……)

リド「オレは、そう言うしかねえだろ……!」

つい声を荒げてしまうと、〇〇がうつむいた。

リド「悪い……さ、もう寝ろ。 兄貴にちゃんと、返事してやれよ」

そう言ってオレは、再び窓の外へと視線を向ける。

(やばい……つい気持ち、ぶつけるとこだった)

(まあでも、ここまで言えば〇〇だってわかってくれる…―)

〇〇「リド待って、私は……」

リド「……っ!」

(なんだよ……)

(オレは我慢しなきゃなんねーのに、マジでなんなんだよ……!!)

もう、こらえきれなかった。

リド「オレなんかが、兄貴の邪魔できるわけないだろ! あんたは……何でここに来たんだよ」

彼女の体を抱き寄せながら、震える声で尋ねる。

〇〇「……リドに、伝えなきゃって思ったの。 私が、一緒にいたいのは……」

(……っ!)

〇〇が涙ぐみながら言葉を詰まらせる姿を見て、胸に驚くほどの痛みが走った。

リド「ごめん……」

(全然駄目だな、オレ)

(兄貴だったら……好きな奴にこんな顔はさせねえよ)

(けど……!)

オレは覚悟を決め、拳をぎゅっと握りしめる。

リド「兄貴にも、誰にも譲りたくない。 ……あんたの一番になりたいんだ。 他の奴を見ないで、オレだけを見てくれ」

……何かにわがままになることは、これが初めてかもしれない。

(ごめんな、兄貴)

(でも、〇〇だけは……譲れねえんだ)

心の中で兄貴に詫びながら、彼女の返事を待っていると…-。

〇〇「……うん、私もリドが一番好き」

(……!)

その一言が、嬉しくて仕方ない。

けれども素直になれないオレは…-。

リド「……オレがいいなんて、やっぱりあんた変な奴だ」

そう言いながら彼女の瞳に溜まっていた涙の粒を指でぬぐい、ありったけの優しさを込めて頬を撫でた。

(オレも、あんたが一番好きだ)

(そんなあんたの一番になれて、本当に嬉しいよ)

そうしてオレは、目の前の彼女に唇を重ね……

心の中でそっと、自分を選んでくれた感謝を必ず返そうと誓ったのだった…-。

おわり。

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