言祝さんに助けられた後…ー。
彼は私の手を引いて、城からどんどん離れて行った。
○○「戻らなくていいんですか?」
嗅がされた薬のせいか、まだ少しだけ意識が朦朧としている。
言祝「いいんだ」
彼は迷い無くそう言い切り、私の手を強く握る。
言祝「今、君を父上がいる所に連れていくのは危険だ。それに…。 ○○と、話したいことがある」
○○「…言祝さん」
言祝「行こう」
手を引かれるままに、私は彼についていく。
そこは、城よりは小さいけれど、充分に豪華な邸宅だった。
○○「ここは…?」
言祝「俺の別荘」
悪戯っぽく微笑む言祝さんの足元には、鉢植えの植物の葉が月明かりに照らされて緑色に輝いている。
言祝「君に話したいことがあるんだ」
鉢植えから視線を私に移して、彼はゆっくりと話し出した。
言祝「俺は、今まで自分の意思を持たない……いや、持てない人間だと思っていた。 君は、俺がメイとの争いを望んていないと言った。その通りだよ」
ーーーーー
○○「言祝さんは、メイの国との争いを望んでいないように思えます」
ーーーーー
○○「言祝さん…」
言祝さんが苦笑いを浮かべる。
言祝「そうだ、俺はずっと嫌だったんだ。でも、この国の王子だと自分に言い訳して向き合おうとしなくて……。 諭してくれる人も、周りにはいなかった。 ずっと父上の……国の人形だった……」
そう言って、言祝さんは私の正面に立った。
言祝「でも、君と話していると……心を剥き出しにされていくような気がする。 不思議とそれが嬉しいんだ」
○○「言祝さん……」
彼の瞳には、明るい光が宿っていた。
私はそのことがとても嬉しくて…ー。
○○「私も、とっても嬉しいです」
そう言って、にっこりと微笑むと…ー。
不意に、言祝さんが私の指先にキスを落とした。
○○「……!」
電流のような感触が、指先から駆け上がる。
言祝「父上にも、○○には絶対に手出しさせない。 だから、もっと俺に言葉をくれないか…ー」
甘えるような彼の声に誘われ、彼の顔を見ると……プレゼントしてくれたエメラルドと同じ色の瞳が私を移していた。
○○「こ、言祝さん」
言祝「……何?」
(顔が……近いっ)
○○「き、緊張して、何を話したらいいか……」
言祝「……ドキドキしている?……俺も。 こんなの、初めてだ。 君の言葉を聞くと、君の笑顔を見ると、俺の中で君が溢れてきて……。 君に触れたくなってしまう。俺、どうしちゃったのかな。 君に触れていないと不安になる」
そうして今度は頬に、ひとつキスが落とされる。
ふれた唇の熱さに、私は恥ずかしさに頬を染める。
言祝「……可愛い」
○○「言祝さん……」
言祝「こっちを向いて?○○」
子どものような言祝さんの声に振り返ると、言祝さんの瞳が私の言葉を待つように瞳が静かに揺れていた。
○○「……言祝さんの望みは、見つかりましたか?」
言祝「ああ」
○○「よかった。これでエメラルドのお礼ができます。 私にも、手伝わせて下さい」
言祝「…ありがとう。 殻をかぶった、形だけの王子はもうやめることにする。 たとえこの国にいられなくなったとしても、俺は父上と戦うよ」
○○「言祝さん……」
言祝「そうだ、あとひとつ望みがある」
○○「なんですか?」
聞くと、言祝さんがクスリと笑って…ー。
言祝「俺を、君だけの王子にしてくれますか?」
(え…?)
○○「それは、どういう……」
言い終わらないうちに、唇が唇で塞がれる。
ひどく熱いその感覚に、頭がぼうっとして、言祝さんの中に生まれた感情を、私はただ受け止めていた…-。
おわり