月最終話 恋を結ぶ特別な桃

翌日…-。

私はカイネ君と一緒に、百福の桃を探すため森へ来ていた。

カイネ「〇〇さん、大丈夫?足元に気をつけてね」

〇〇「うん、ありがとう。平気だよ」

生い茂る木々をくぐり抜けながら、私達は森の奥へと歩みを進めた…-。

……

そして……

彼と共にたどり着いた場所には、一本の大きな桃の木が無数の枝葉を広げて神々しくそびえ立っていた。

〇〇「すごい……」

森の番人でも住んでいそうなその佇まいに見とれ、私は思わずため息を漏らした。

カイネ「ボク、ここには小さな頃に連れてきてもらったんだけど、その時は登れなくて……」

カイネ君は、太い幹に手を伸ばして足をかける。

カイネ「でも、今なら登れそうな気がするんだ。ちょっと待ってて」

(えっ……)

〇〇「カイネ君、気をつけて」

カイネ君は、手足を上手く動かし、するすると桃の木に登っていく。

(大丈夫かな……?)

心配しながら見上げていると……

カイネ「……わわっ!?」

登っている途中で、カイネ君は足を滑らせて落ちてしまった…-。

〇〇「カイネ君……!」

カイネ「いてて……」

慌てて駆け寄る私に、カイネ君は困ったような笑顔を向ける。

カイネ「ごめん、失敗しちゃった」

〇〇「大丈夫?はしごとか持ってきた方が…-」

カイネ「駄目!」

言葉を遮り、カイネ君は真剣な表情で私を見つめる。

彼の瞳の中に映っている私が、微かに揺れていた。

カイネ「ボク、どうしても挑戦したいんだ。心配かけちゃってごめん、でも…-。 ボクを信じて」

(カイネ君……)

その真剣な眼差しに、昨日彼から聞いた話を思い出す。

―――――

カイネ『古くから、この桃を食べた女の人は幸せになるって言われてるんだ。 ペルシェでは昔から、男性がこの桃を好きな人にプレゼントをして告白をするんだよ』

―――――

(カイネ君、告白したい相手がいる……のかな?)

なぜか胸が小さく痛み、私は彼を見つめる。

カイネ「〇〇さん?」

〇〇「あ、ううん……なんでもない。頑張ってね」

カイネ「ありがとう! よ~し……!」

カイネ君は再び大きな幹に手を伸ばすと、もう一度桃の木に登り始めた。

華奢な体を揺らし、まるで懸垂のように腕の力を使いながら、木の上へ上へと登っていく。

(カイネ君、早い……!)

細い腕からは考えられないほど逞しい姿に、心配することを忘れ見入ってしまう。

カイネ「採れた……!」

一番高いところになっている桃に手を伸ばし、カイネ君が声を上げる。

(あんなに高いところの桃を……すごい)

カイネ君は桃を手に取ると、枝を伝いながら身軽に飛び降りてくる。

彼の手の中には、綺麗なピンク色をした大きな桃が握られていた。

カイネ君は顔をくしゃっとさせて笑うと、私にまっすぐに向き直る。

そして、採ってきたばかりの桃を私に差し出した…-。

(え……?)

カイネ「これ……受け取ってくれませんか?」

改まった様子でそう言われ、思わず目を見開く。

(カイネ君の百福の桃をあげたい人って……私?)

高鳴る胸を自覚しながら、私は小さく頷いた。

〇〇「はい」

手のひらにのせられた桃はずしりと重く、思った以上に大きくて……

〇〇「百福の桃って、すごく大きな桃なんだね」

カイネ「父さんが、昔教えてくれたんだ。桃花祭の日に母さんにあげた、一番綺麗で大きな桃があった場所を。 この場所で桃を採って……それを渡して告白したんだって。 これは、父さんと母さんの恋を結んだ特別な桃なんだ」

〇〇「特別な、桃……」

私がつぶやくと、カイネ君は大きく頷く。

カイネ「そうだよ。だからこの桃をキミに贈りたかったんだ。 父さんみたいにプロポーズは、まだ早いかもしれないけど……」

真剣な眼差しで見つめられ、心臓が早鐘を打つ。

カイネ「〇〇さんに毎年、この桃を贈りたい。 ボク、絶対すぐに大きくなるから……だから、待っててほしいんだ」

(カイネ君……)

髪の毛に葉が乗り、顔には泥がついている……

私のために一生懸命この桃を採ってくれたカイネ君が愛おしく、胸がぎゅっと締め付けられる。

〇〇「……うん」

頷いて答えると、カイネ君は満面の笑みを見せる。

(カイネ君から桃を貰えて……嬉しいな)

桃からふわりと甘い香りが漂い、胸が幸せな気持ちで満たされていく。

〇〇「一緒に桃、食べようか」

私の提案に、彼が嬉しそうに頷いた。

視線がぶつかり、私達は笑みを交わす。

大きな桃の木はまるで私達を祝福するかのように、風に揺れて優しい葉音を鳴らしていた…-。

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