廊下の窓から、月明かりが差している…-。
(ああ~、もう……姉さん達は……)
〇〇さんと楽しく街を歩いていたら、姉さん達にばったり遭遇してしまった。
(姉さん達のせいで、桃を渡す前に〇〇さんにバレちゃいそうだった……)
ボクには、〇〇さんが来る前から、密かに計画していたことがあった。
(父さんと母さんの恋を結んだ、特別な桃……あれを〇〇さんにあげたい)
ボクは勇気を出して、〇〇さんに一緒に百福の桃を採りに行こうと誘った…-。
生い茂る木々をくぐり抜けながら、ボクは〇〇さんと森の奥へ進み……
目的の大きな桃の木の前に辿り着く。
〇〇「すごい……」
〇〇さんが、小さくため息を吐いた。
(よしっ!今こそボクが、かわいいから格好いいに変われる瞬間だ)
カイネ「ボク、ここには小さな頃に連れてきてもらったんだけど、その時は登れなくて……。 でも、今なら登れそうな気がするんだ。ちょっと待ってて」
太い幹に手を伸ばして、足をかける。
〇〇「カイネ君、気をつけて」
〇〇さんが、心配そうに声をかけてくれる。
(毎日のトレーニングの成果を、ここで発揮するんだ……!)
そう気合を入れて、順調に登っていったけれど……
カイネ「……わわっ!?」
足を滑らせた次の瞬間、ボクは地面に落ちてしまう。
〇〇「カイネ君……!」
カイネ「いてて……」
駆け寄ってきた〇〇さんに心配そうに覗き込まれて、ボクは苦笑する。
(格好悪いところ見られちゃったな……)
カイネ「ごめん、失敗しちゃった」
〇〇「大丈夫?はしごとか持ってきた方が…-」
カイネ「駄目!」
(ボクは、キミに一人の男として見てもらいたいんだ。だから……)
(この桃は、自分の力で採りたい)
カイネ「ボク、どうしても挑戦したいんだ。心配かけちゃってごめん、でも…-。 ボクを信じて」
まっすぐに見つめてそう言うと、〇〇さんが表情を曇らせる。
カイネ「〇〇さん?」
〇〇「あ、ううん……なんでもない。頑張ってね」
カイネ「ありがとう! よ~し……!」
(綺麗で大きな桃を、キミに絶対渡すから!)
気合を入れ直して、再び桃の木に手を伸ばす。
(……あの桃が、一番大きくて綺麗だ)
一番高いところになっている桃をめがけ、ボクは腕の力を使って上へ登っていく。
そして……
(よしっ……!)
ボクはついに、目的の桃を手に入れた。
カイネ「採れた……!」
逸る気持ちを抑えながら下に降りて……
ボクは〇〇さんに桃を差し出す。
カイネ「これ……受け取ってくれませんか」
〇〇さんは、驚いたように目を見開く。
その頬をほんのり赤く染めた後……
〇〇「はい」
手のひらにのせた桃を見つめ、〇〇さんが目を瞬かせる。
〇〇「百福の桃って、すごく大きな桃なんだね」
感動したようにそう言われて、頬が緩む。
カイネ「父さんが、昔教えてくれたんだ。桃花祭の日に母さんにあげた、一番綺麗で大きな桃があった場所を。 この場所で桃を採って……それを渡して告白したんだって。 これは、父さんと母さんの恋を結んだ特別な桃なんだ」
〇〇「特別な、桃……」
カイネ「そうだよ。だからこの桃をキミに贈りたかったんだ」
気持ちを落ち着かせたくて、一度深く息を吐く。
(……緊張する。でも、ここでちゃんと……言うんだ)
ボクは覚悟を決めて、〇〇さんを見つめた。
カイネ「父さんみたいにプロポーズは、まだ早いかもしれないけど……。 〇〇さんに毎年、この桃を贈りたい。 ボク、絶対すぐ大きくなるから……だから、待っててほしいんだ」
〇〇さんは、桃を両手で包み込んでいる。
〇〇「……うん」
照れたように微笑む〇〇さんがかわいくて、胸が大きな音を立てる。
(やった……!)
〇〇さんとの関係が一歩進んだような気がして……
(ボクもキミにいつか、プロポーズを……)
未来へ想いを馳せる。
大きな桃の木が、まるでボク達を祝福するように風に揺れていた…-。
おわり。