月最終話 伝わった想い

そしていよいよ愛の日、当日…―。

私は朝からお茶会の準備に勤しんでいた。

(マーチア、喜んでくれるかな)

彼のために用意したチョコレートと、食器店で見つけた綺麗なティーカップ……

それらをテーブルの上に並べていると、やがてノックの音が聞こえた。

マーチア「入っていいー?」

〇〇「どうぞ」

勢いよく扉が開かれ、笑顔を浮かべたマーチアが足取り軽く入ってくる。

マーチア「わ、これ全部君が準備したの?」

〇〇「うん、どうかな?」

マーチア「すごいすごい! あ、君がしたいって言ってたお茶会だね」

その声はいつも通り明るいものだったけれど、どこかぎこちない気がして…-。

マーチア「あ、そうだ。〇〇ちゃん、はいこれ」

マーチアが思い出したように手に持った袋を私に差し出した。

〇〇「えっ、私に……?」

マーチア「うん。開けてみて!」

その言葉に促され、袋に手を入れる。

〇〇「これ…-」

中に入っていたのは、高級そうな茶色の箱だった。

蓋を開けると、光沢のあるチョコレートが並んでいる。

(愛の日にマーチアからチョコレートをもらえるなんて……)

湧き上がる嬉しさに、笑みがこぼれる。

〇〇「ありがとう、マーチア。すごく嬉しい」

笑顔でお礼を言うけれど、マーチアは終始、気遣わしげな表情を浮かべていて……

マーチア「それさ、すっごく甘くておいしいんだよね。 たぶんすっごくすっごく幸せな気分になれちゃうから、元気出しなよ」

その言葉の意図がわからず、首を傾げながら尋ねてみる。

〇〇「うん、ありがとう。でも、元気出しなよって?」

すると、マーチアも眉をひそめながら、おずおずと遠慮がちに口を開いた。

マーチア「え? だって失恋したんじゃないの?」

〇〇「え……マーチアに?」

マーチア「そう、オレに……え?」

その言葉に、マーチアが金色の瞳をこれ以上ないほど大きく見開く。

マーチア「あれ? あれあれ?? どういうこと!?」

ぐっと距離を縮められ、マーチアの勢いに閉口してしまいそうになる。

けれど…-。

(今度こそ、ちゃんと伝えたい)

私はまっすぐにマーチアの目を見つめ、口を開いた。

〇〇「私が愛を伝えたいのは、マーチアだよ」

以前伝えられなかった言葉を、ゆっくりと紡ぎ出す。

〇〇「あの時ちゃんと言えなくてごめんなさい。でも…-。 私が愛の日をこうして一緒に過ごしたいのは、マーチアだから」

顔に驚愕の色が広がったと思うと、マーチアは脱力したように一気に肩を落とした。

マーチア「ちょっとちょっと、それならそうと早く言ってよー! 君は他の男が好きなはずなのに愛の日に呼ばれたから、てっきり失恋しちゃったのかと思って……。 好きな子の失恋を慰めることになるなんて~って思ってたのに! もう! なんでオレが君に振り回されないといけないんだよー!」

くるくると表情を変え、マーチアが抗議の声を上げる。

〇〇「ご、ごめんね……」

おずおずと、彼の顔を覗き込んでみると……

マーチア「……まぁ、楽しいからいっか!」

いつもより明るく、花が咲いたような笑顔を向けてくれた。

(やっと伝えられた……)

マーチアと気持ちが通じ合った喜びを噛みしめる。

彼は、そんな私を誘うかのように長い腕をいっぱいに広げて…-。

マーチア「愛の日のティーパーティ、始まり始まり~♪」

ご機嫌な彼の仕草と言葉につられて、私の気持ちも高揚していく。

マーチア「オモシロおかしくて、すーっごく幸せなパーティにしようよ! あ……そうだ。ねえ、オレが買ってきたチョコ食べてみてよ♪ 笑顔になれちゃうから、絶対!」

この上なく嬉しそうな笑顔を浮かべるマーチアが愛おしくて、自分でもわかるほどに、笑みが顔いっぱいに広がる。

〇〇「私はもうとっくに、マーチアに笑顔にしてもらってるよ」

マーチア「まだまだ! オレはもっともっと、〇〇ちゃんの幸せそうな顔が見たいんだから!」

〇〇「マーチア……ありがとう。 大好きだよ」

溢れる想いを言葉に乗せる度に、マーチアの頬が赤くなっていった。

マーチア「えー……何それ、もう、ずるいなあ! そんなかわいい不意打ちする〇〇ちゃんには……こうしちゃお♪」

そして、飛び跳ねるようにして私に抱きついて…-。

〇〇「んっ……」

二つの唇がぴったりと隙間なく重なり合った。

唇を離したマーチアの顔をじっと見つめると、彼は瞳を潤ませた。

マーチア「……もう、なんでそんなにいちいちかわいいのさ! ますます君のこと好きになったら、どう責任取ってくれるわけ?」

照れ笑いを浮かべるマーチアに、そのままぎゅっと抱きしめられる。

二人の間に、もうわだかまりは欠片もなくて……

ありったけの想いを込めて、私達はもう一度キスを交わしたのだった…-。

おわり。

<<月7話||月SS>>