月SS 敵わない恋人

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リド『『愛の日』じゃなくてもさ、また二人で遊びに行こうぜ』

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そんなオレのわがままを、〇〇に伝えた。

(笑われちまったけど……まあ、気持ちは伝わったよな)

〇〇の髪を撫でて、オレは内心で苦笑いする。

すると…-。

〇〇「あ……」

何かを思い出したのか、〇〇がハッと目を見開く。

リド「ん? どうかしたか?」

〇〇「リド、ちょっと用事を思い出したから、先に行っててくれる?」

リド「用事? だったらオレも一緒に…-」

〇〇「いっ、いいよ!」

言いかけた言葉は、焦った表情と共に打ち消される。

リド「ああ、わかった」

勢いに押されて頷くと、〇〇は元来た道へと小走りに姿を消してしまった。

(大丈夫……なのか? 何をそんなに慌てて…-)

心配になるくらいなら、無理にでもついて行けばよかったと今になって後悔しながら……

(ちょっと、寂しいな)

オレは城へ続く道を、ゆっくりと歩き始めた…-。

……

しばらく部屋で待ち続けても、〇〇は一向に姿を現さなかった。

リド「……いくらなんでも遅すぎる」

(すぐに戻って来るかと思ったのに……いったいどうしたっていうんだよ)

気を紛らわせるためベッドに座り、さっきあいつと撮った写真を手に取った。

そこには、無邪気な顔で笑い合っている、オレ達の姿が写っている。

(オレって、あいつの前だとこんな顔してるんだな)

もらった写真を見ていると、次第に顔がほころんでいく。

(こっちの写真なんて、腹抱えて笑ってるし)

(〇〇も、すげーいい顔してる……)

リド「……」

一枚一枚見ていくうちに、〇〇に会いたい気持ちがもっと強くなってしまった。

リド「早く会いてえな……」

(こんなに遅いなんて……まさか、あいつに何かあったとか?)

だんだんと不安が広がってきた、その時…-。

(……!)

控えめなノックの音と、〇〇の声が聞こえた。

リド「〇〇か?」

声をかけると、ゆっくりと扉が開いて〇〇が顔を覗かせる。

それだけでどっと、安堵が込み上げた。

けど……

(なんか、無理して笑ってるような……)

(やっぱ、何かあったのか?)

リド「用事は済んだのか? けっこう長い時間だったけど……大丈夫だったか?」

オレはベッドに腰かけたまま、彼女にそう尋ねた。

〇〇「うん。待たせちゃって、ごめんね」

〇〇はゆっくりとオレの傍まで来て、隣に腰かける。

〇〇「あのね、リド…-」

そして、恥ずかしそうに小さな袋を差し出した。

リド「え……?」

(なんだ、これ?)

目を瞬かせていると、〇〇に袋を開けるように促される。

そこには、さまざまな宝石の形をしたチョコレートがひとつひとつくるまれていて…-。

リド「これ……!」

〇〇「今日、いろいろなところに連れて行ってくれたでしょう? エクランシュを食べたり、記念写真を一緒に撮ってくれたり……」

〇〇の声が紡がれる度に、ドキドキと鼓動が加速する。

〇〇「すごく嬉しかったから……私もリドにちゃんとお返しがしたいなと思って」

はにかむように笑う〇〇に、胸がいっぱいになった。

(なんだよ……)

(ずりーだろ、こんな…-)

〇〇「ありがとう……リド。 リドのことが、大好きだよ」

リド「……!」

大好きという言葉に、心臓が跳ね上がった。

(やばい……すっげー嬉しい)

赤くなっているであろう顔を見られたくなくて、誤魔化すように〇〇の肩に頭を乗せた。

〇〇「っ!」

リド「すげー驚いた」

そう口にするのが精一杯で、何も言えなくなってしまう。

(あー……どうしたらいいんだよ)

〇〇も何も言わなくて、沈黙が余計にオレの心を刺激した。

(今日はさ、オレがあんたを喜ばせてやるつもりだったのに)

リド「あーあ、あんたには敵わねえな」

〇〇「え……?」

リド「……大好きとか、反則だろ。 かわいすぎて理性が飛びそうになるから、あんまオレを喜ばせるなよ」

火照る心を隠すことができず、オレは心のままを打ち明ける。

リド「これからはできるだけ、あんたのわがままを叶えてやりたいって思ってたのにさ……。 オレの方が、嬉しいことしてもらってばっかだ」

〇〇「……リドが嬉しいことが、私にとっても嬉しいことだよ」

リド「! だから、そんな喜ばせるなって」

(……限界だ、もう)

彼女の言葉に、オレはいとも簡単に揺さぶられてしまう。

〇〇「あの、リド……?」

リド「……それとも、理性が飛んでもいいってことか?」

〇〇「!」

顔に集まる熱は収まらないまま、〇〇に触れようと手を伸ばす。

〇〇「あ、あの……」

恥ずかしがる彼女の姿を見て、オレは何事もなかったかのように笑顔を向けた。

リド「冗談だよ」

髪を撫でると、〇〇が安堵したように微笑む。

(……冗談なんかじゃ、ないけどな)

(あんたが少しでも困るようなことは、今はしたくない)

愛の日に、好きな人と想い合える幸せを噛みしめながら……

これからも〇〇のことを大切にしたいと、心から思ったのだった…-。

おわり。

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