月最終話 弧実の作用

その日の夜…-。

部屋へ戻っても、思い出すのはサキアのことばかりだった。

(サキア……大丈夫かな)

(あの狐雨のことすごく気にしてたし、何か無茶なことをしなければいいけど……)

あの時の様子を思い出すと、いてもたってもいられず……

私はサキアの部屋へ向かうことにした…-。

……

サキアの部屋の前に立ち、襖越しに控えめに声をかける。

〇〇「サキア……」

彼の名前を呼ぶと、部屋の中から慌ただしい物音が聞こえてきた。

サキア「え……っ、〇〇!?」

〇〇「ど、どうしたの!?」

サキアにしては慌てた声に心配になり、私は思わず襖を開けてしまった。

すると…-。

〇〇「え……?」

サキア「あ……」

目の前にいたのは、確かにサキアだけれど……

その頭には狐のような耳が生え、お尻からは大きな尻尾が生えていた。

(こ、これっていったい……)

動揺して上手く言葉が出ずに、その場で固まってしまう。

サキア「あ、あの……これは……」

サキアはばつが悪そうな顔をして、もじもじと話し始める。

サキア「……その、どうしても気になって……ほんの少しだけ、かじってみたんだ……。 そしたら……」

言いにくそうにしながらも、サキアは自分の体を丹念に確認している。

ふかふかの耳に触って、尻尾を何度も震わせていた。

サキア「なんだか……すごい……」

くるりと一回転して、それから…-。

〇〇「……!」

私がいるにも構わず、彼ははらりと着物をはだけさせて、尻尾の生え際を確認しようとした。

〇〇「……っ!」

あらわになる彼の肌が恥ずかしくて、思わず目を逸らしそうになる。

だけど……

サキア「あ……」

私がいることを意識したのか、サキアは頬を赤くして、少し上目で私を見つめた。

(かわいい……けど……)

サキア「ごめんね……僕、ちょっとまだ……びっくりしてて……。 あの実を食べたら……こうなるって……わかってなくて……今、わかって……」

薄く灯る灯りが、彼の体に陰陽を作り出している。

(すごく……色っぽい……)

〇〇「う、うん。びっくりするよね……」

サキア「……どう……思う?」

〇〇「え……」

(どう、って……)

何かをねだるような甘い視線で問いかけられて、鼓動がゆっくりと速まっていった。

ふさふさの耳や尻尾はとても愛らしいのに、まとう雰囲気は妖艶で……

〇〇「……」

なぜだか吸い寄せられるようにサキアに近寄ってしまう。

その頭に生えた耳に触れてみようと、気づけば手を伸ばしていた。

サキア「ふふっ……」

〇〇「あ……」

不意に聞こえた笑い声に、はっと我に返りその手を止める。

(私、今……)

サキア「……あなたを引き寄せる、副作用もあった……みたい……?」

髪の合間から見え隠れする瞳は、これまで見たことがないくらい妖しい輝きを湛えている。

(サキア……なの……?)

戸惑う私を映すその瞳が、弧を描くように細められた。

サキア「僕が、悪い狐だったら……そんな無防備な状態……いたずらされちゃうよ……?」

〇〇「いた、ずら……。 で、でも……サキアはかわいいから、私の方がいたずらしちゃうかも……」

胸の鼓動を誤魔化すように強がって言い返してみれば、サキアがふわりと首を傾げる。

柔らかそうな前髪がさらりと綺麗に流れた。

サキア「なら……確かめてみる……?」

〇〇「っ……!」

何をする間もなく、手を掴まれ引き寄せられたかと思えば……

サキアに後ろから抱きすくめられ、その腕の中に閉じ込められた。

〇〇「サ、サキア!」

サキア「いたずら……しないの?」

くすりと笑うサキアの吐息が、私の首筋を甘くくすぐる。

サキア「ふふっ……これ……すごくドキドキ……するね……」

これままで一番、甘く魅惑的な音に言葉がのせられる。

(どうしちゃったの……?)

サキア「最初は……びっくりしたけど……。 こういう作用が……あったのかな……」

サキアはそのまま私の首筋へ顔を埋めたかと思えば……

熱く蕩けるような口づけがそこへ落とされた。

〇〇「ん……っ」

甘い痺れが体に広がり、やがて力が抜けていく。

サキア「〇〇……狐実って、やっぱりよくないものだったのかな……」

〇〇「……わからない……よ」

いつしか雨が降りだしたのか、外からは静かな雨音が聞こえてくる。

サキア「~♪」

サキアは雨音に乗せて、何かの歌を口ずさみ始めた。

彼が音を紡ぐ度に私の首筋にかかる吐息は、熱く甘く……やがて思考を蕩けさせていったのだった…-。

おわり。

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