暗闇に灯った照明が、室内をおぼろげに照らしている…―。
フォーマ「……」
フォーマは夕食後からずっと借りた書物を読みふけり、この国の植物について調べていた。
けれど彼は時折確認するように、頭に生えた耳を手で触っている。
○○「ごめんね。私のせいで……」
フォーマ「ん?」
顔を上げたフォーマと視線が絡み合った。
○○「フォーマのために何かできないかなと思ったんだけど……まさか、こんなことになるなんて」
フォーマ「ああ。この耳と尻尾のことか」
彼は穏やかな微笑みを浮かべて立ち上がり、私との距離を縮める。
フォーマ「謝る必要はないよ。むしろ、気を使わせてしまって申し訳ないな」
すっと伸びた彼の手のひらが、私の頭を撫でた。
フォーマ「今日一日付き合ってくれて嬉しかった。 それに今だって、調べ物を手伝ってくれてるだろう? 僕のやりたいことは、君のおかげで全部叶ったよ」
綺麗な黄色の瞳が、眼鏡の奥で穏やかな輝きを放っている。
フォーマ「だから今度は君の番だ。何かしたいことはないか?」
○○「私……?」
したいことと問われてすぐ、私はゆらゆらと揺れる尻尾を見た。
(こんなことをお願いしても……いいのかな)
押さえていた尻尾を触りたいという欲が、再び大きくなる。
すると……
フォーマ「そんなに気になる?」
○○「えっ?」
顔を上げると、フォーマは悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
(見てたの、気づいてたんだ……)
急に恥ずかしくなり、同時に頬の熱も高まってくる。
○○「うん。実はずっと、触ってみたくて……」
フォーマ「そんなにか」
フォーマの笑みが深くなり、ふわりと揺れる尻尾が誘うように私の手を撫でた。
フォーマ「ほら……どうぞ」
微笑む彼の眼差しがなんだか妖艶に見えて、ドキッとしてしまう。
フォーマ「触らないのか?」
わざと私の目の前で尻尾を揺らすフォーマに誘われるように、私は見るからにふさふさな尻尾へと手を伸ばした。
○○「わぁ……」
ふわふわとした毛並みが気持ちよくて、思わず感嘆の声を上げてしまう。
(……ずっと触っていたいかも)
フォーマ「っ……思ったよりくすぐったいな」
ぴくりと体を震わせるフォーマは、それまでの妖艶な笑みとは一変、照れくさそうな表情を浮かべた。
○○「ふふ、かわいいね」
(フォーマって、こんな顔するんだな)
今まで見たことのない彼の姿に、自然と笑みがこぼれ……
フォーマ「……」
フォーマは、私を見つめたまま黙り込んでしまった。
○○「ごめんね。嫌だった?」
彼の尻尾から慌てて手を離す。
けれど……
フォーマ「……いや、僕から見れば君の方がずっとかわいいなって」
○○「えっ……?」
ゆらりと尻尾が揺れたと思った、次の瞬間……
彼のしなやかな腕が、私の腰を引き寄せた。
フォーマ「少し、油断しすぎじゃないかな」
○○「……!」
胸に飛び込むような形で抱き寄せられて、鼓動が見る間に加速していく。
フォーマ「……僕だって、男なんだ」
○○「フォーマ……?」
(なんだか、いつものフォーマと違うみたい)
腕の中に捕らえられた私が、じっと彼を見上げることしかできずにいると……
フォーマ「知ってた? 狐は雑食だけど、肉食性がとても強いって」
彼の尻尾が弄ぶかのように、私の体にまとわりつく。
○○「……っ」
くすぐったさに思わず身を震わせると、気のせいか、彼の黄色い瞳が少しだけ楽しげに揺らめいた。
フォーマ「そんな獣をかわいいなんて言って油断してたら、食べられても文句は言えないんじゃないかな」
そう言うなりフォーマは、私の首筋に唇を落とした。
○○「フォーマ……!?」
その口づけは、いつもの優しい彼からは考えられないほど強く……
首筋から唇が離れた瞬間、熱い彼の吐息が耳をくすぐった。
フォーマ「あの実を食べたせいかな……君に、触れたくて仕方がない。 なんだか君を食べてしまいたい気分だ。 君を食べても……いい?」
静かに頷くと、瞬きをする間もなく彼の熱い唇が私の唇を奪う。
甘い口づけに翻弄されながら、私は押し倒されるように畳に体を預けるのだった…―。