月SS 繋いだ手の先へ

記録の結び手の会議が無事に終わった後、会議場から帰っていく出席者ひとりひとりの顔を、オレは壇上から見つめていた…-。

(皆、いい笑顔をしてくれてる……よかった、本当に会議は成功したんだ)

議長としての役目を終えたことを実感して、心の底から胸を撫で下ろす。

(ここまでできたのは、〇〇ちゃんのおかげだ)

(オレには笑顔を生み出す力がある……そう気づかせてくれたから)

オレは、会場内で見守ってくれていた〇〇ちゃんに視線を向ける。

(力を与えてくれた君に……今、どうしても伝えたいことがある)

オレは高まる想いを胸に、彼女へと駆け寄った…-。

……

夕暮れに赤く染まった街は、人々の優しい笑顔で満ち溢れている……

ルグランジュ「オレの普段の仕事って、系図を管理することでしょ? ここにいる皆の繋がりを見守るだけで、他人の未来には干渉できない……。 不幸な未来が待っていても、手を差し伸べられないことが辛かったんだ」

オレは〇〇ちゃんと並んで歩きながら、ありのままの気持ちを語った。

(悲しい未来をどうにかしたくてたまらない時が、これまで何度もあった)

(でも……どうすることもできなかった。未来を変えてしまうわけにはいかないから)

オレの話に耳を傾けてくれている彼女の顔に、だんだんと切なげな影が落ちていく……

(……ごめん。こんな話をして、悲しい気持ちにさせちゃったね)

(でも、オレはもう大丈夫だから)

オレは〇〇ちゃんの手を取り、きゅっと力を込めた。

ルグランジュ「でもね、今回の会議は違ったんだ。 自分の手で国と国を繋いで……新たな幸せを生み出すことができた。 たくさん悩んで、苦労もいっぱいしたけど……議長を経験できてよかったなって思うんだ」

(今、君と手を繋いでいるみたいに……オレにも何かを繋ぐことができるって)

(そうすることで、より良い未来を導くことができるって、わかったから)

〇〇「ルグランジュくん……」

ルグランジュ「新しい幸せを生み出せたことは……会議の成功以上に嬉しかった。 本当に嬉しかったんだよ」

爽やかな風が、オレ達の間を吹き抜ける。

ルグランジュ「系図の管理の仕事では、こういうわけにはいかないけど……。 これからも自分のできる範囲で、レコルドの幸せを生み出していきたいな」

(そして幸せにできた誰かが、また他の人を幸せにして……)

(幸せの輪が、ずっとずっと繋がっていってほしいんだ)

願いを込めて手を握ると、彼女も応えるように力を入れた。

〇〇「ルグランジュくんならできると思います。 なぜなら……ルグランジュくんはもう、この街の皆をたくさん笑顔にしているから」

ルグランジュ「ありがとう、〇〇ちゃん……」

彼女の優しい声が、ゆっくりと体に染み渡る…… 

やがて視界がにじみ始め、〇〇ちゃんの姿がかすみ始めた。

(どうしよう……泣くつもりなんてなかったのに)

ルグランジュ「あっ、ごめん……なんだか一気に安心しちゃってさ……」

言い訳しながら、オレは慌てて目元を軽くぬぐった。

ルグランジュ「幸せな未来を繋いでいくって、素敵なことだよね。だからオレ、頑張るよ」

(……ねえ、君は知ってるかな?)

(君のたった一言が、オレにすごい勇気をくれてるって)

ちょっとした仕草や、さりげない一言……

オレの心に彼女のすべてが記録されていき、愛おしさが募っていく…-。

ルグランジュ「ただ……その前に、君を幸せにしなくちゃかな」

〇〇「え?」

ルグランジュ「今、オレが手を繋いでいるのは君だからね!」

(もちろん、これからも君意外と繋ぐつもりはないよ)

ルグランジュ「ずっとずっと、大切にしたいんだ。この温もりを。 大切な人との未来も、この手で繋いでいきたいから……」

(好きな人を幸せにできないのに、他の人を幸せにできるはずなんてない)

(だから、オレはこの手で君をとびきり幸せにしてみせる)

オレは彼女の綺麗な手を口元に運び、甲にそっとキスを落とす。

夕陽のせいかはわからないけれど、〇〇ちゃんの顔は茜色に染まって見えた…-。

おわり。

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