月SS 静かなる誓い

夕陽に照らされた彼女の首筋へ、そっと手を伸ばす…-。

イナミ「よかった」

本に宿っていた物の怪の思念につけられた痣は、〇〇ちゃんの体から綺麗に消えていた。

『ありがとう…-』

本が閉じられた瞬間、オレは何かから解き放たれたような……安心した声を聞いた気がする。

切なさを含んだあの声が今も耳に残って、胸の奥を締めつけた。

〇〇「……でも、どうして消えたんだろう」

イナミ「それはたぶん、オレが幸せだったから」

〇〇「え?」

不思議そうにしている彼女へ、オレなりの考えを口にする。

(まあ、本当のところはわからないけどね)

イナミ「あの本に込められていた伝わらない想いは、悲しい怒りに変わってしまって……。 声を拾ってくれたキミに向けてしまったんだと思う。 でも、オレとキミを見て、その叶わなかった想いがようやく通じた気がした……」

―――――

イナミ『キミができなかったこと、オレがやって見せるから……見守っててよ。 ね、〇〇ちゃん? ……好きだよ』

〇〇『私も……イナミくんが好き』

―――――

(オレを通して想いが伝わったから、きっとあの本も満足したんだ……)

イナミ「なんて、ちょっと勝手な解釈だけど、そうだったらいいなって思う」

〇〇ちゃんは口を閉じたまま視線を外し、うつむいてしまう。

イナミ「〇〇ちゃん……大丈夫? 気分でも悪い?」

(それとも、これはオレの願望なんだけど……)

イナミ「……もしかして。 オレにドキドキしてるの?」

〇〇「っ……!」

耳元で囁くように問いかけると、彼女の瞳は揺れて……

〇〇「ドキドキ……するよ。 やっと、イナミくんに気持ちを伝えられて……。 イナミくんも同じ気持ちで、すごく嬉しかったから」

イナミ「〇〇ちゃん……」

頬を赤く染めながら、恥ずかしそうに……でも、気持ちを全部言葉にしようとしてくれる。

そんなかわいらしい彼女の様子が、オレの気持ちを高ぶらせる。

(好きな人が、オレと同じように想ってくれている……)

彼女への気持ちを自覚する前には気づかなかった幸せが、オレの心を温かく満たしていく。

イナミ「キミは本当に、かわいいことばっかり言うよね」

たまらず、〇〇ちゃんを後ろから抱きしめる。

〇〇「……っ!」

イナミ「物の怪もきっと、好きな人をこうして抱きしめたかったんだと思う」

(オレは、〇〇ちゃんに好きだと伝えることができるし、抱きしめることだってできる)

幸せを噛みしめるように首筋へ顔を埋めると、彼女の肩がぴくりと震えた。

イナミ「ねえ、こっち向いて?」

〇〇「……」

イナミ「オレと近づくのは嫌?」

〇〇「! そうじゃなくて……」

〇〇ちゃんが慌てて振り返り、ようやくオレを見てくれる。

〇〇「そうじゃなくて、恥ずかしいから……」

イナミ「ははっ、またかわいいこと言って。 けど……オレはキミにちゃんと伝えるよ」

(だって、オレは自分の気持ちを押し込めなくていいから)

イナミ「口づけ、してもいい?」

返事を待たずに、オレは彼女の唇に触れた。

イナミ「〇〇ちゃん、好きだよ。 これからも……キミのことを傍で守らせて?」

彼女は優しい表情を浮かべながら頷くと、ゆっくり目を閉じる。

受け入れようとしてくれた彼女へ、オレはもう一度唇を寄せて……

〇〇「……ん」

彼女への愛しさがさらに込み上げ、オレは彼女を胸に引き寄せた。

イナミ「……物の怪の気持ち、わからなくもないかもな」

〇〇「え?」

腕の中から見上げてくる彼女の頭に手を置く。

イナミ「好きな人に自分の印をつけて、目に見える繫がりにしたかったんだろうなって」

〇〇ちゃんの頭を撫でると、彼女は心地よさそうに目を細めてオレを見つめてくる。

(想いが通じ合っているとわかっても、繋がっている証を欲しいって思う)

(ずっとオレだけの〇〇ちゃんでいてほしいから……)

彼女の愛らしい表情に心をくすぐられながら、オレは好きという気持ちの大きさを再認識した…-。

おわり。

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