月最終話 二人きりで踊る夜

舞踏会の音楽はいつの間にか彼方に消えて、静寂が私達を包んでいる…-。

どれくらい会場から離れたのか……水辺にたどり着いた頃、フォイアさんは足を止めた。

フォイア「静かだな……」

〇〇「はい……」

抱き上げられたままであることに恥ずかしさを感じながら、おずおずと彼の顔を見上げる。

〇〇「でも、いいんですか? 今頃、皆フォイアさんを探しているんじゃ…-」

フォイア「後はハルディーンの仕事だ。それに」

フォイアさんの唇が美しく弧を描いて、優しい笑みが浮かぶ。

フォイア「大礼祭は、女神に感謝を伝える祭りなんだろう?」

〇〇「はい、だから女神に捧げる剣舞を……」

フォイア「それなら俺は、俺の女神に感謝を捧げたい」

〇〇「え?」

フォイアさんはふわりと私を降ろし、おもむろにその場に跪いた。

そして、そっと私の手を取って……

手の甲に、愛おしげに口づけた。

〇〇「フォイアさん……?」

唇の柔らかな感触に、胸が音を立てる。

フォイア「あの夜……広場で言ってくれた言葉を覚えているか?」

―――――

〇〇『フォイアさんの炎は、いつだって皆を笑顔にするために燃えているから。 私もフォイアさんの炎を、もっと見たいです。優しくて、心まで温かくなるような炎を』

―――――

〇〇「はい……」

小さく頷くと、フォイアさんの目が幸せそうに細められた。

フォイア「〇〇が言ってくれたことは、俺の望みだ。俺は、俺の炎で皆を幸せにしたい。 皆が、お前が……いつだって笑っていられるように」

〇〇「フォイアさん……」

フォイア「お前に俺の想いが伝わってるんだと知って……本当に嬉しかった」

青白い星の明かりに照らされて、彼の髪が美しく輝いている。

フォイア「ありがとう、〇〇」

〇〇「そんな……大げさです」

フォイア「大げさなんかじゃない。それほど、俺はお前に支えられているということだ」

私を見上げるフォイアさんの表情はどこまでも真剣で……

フォイア「だから、俺はお前に想いを返したい。 何か俺に望むことはあるか? 〇〇……」

(私の願い……)

彼の真摯な眼差しに引き出されるかのように、ある望みが浮かんできた。

(もう少しだけ……一緒にダンスを踊りたかった)

(フォイアさんと踊るのが、とても楽しかったから)

〇〇「さっきのダンスの続きを…―」

フォイア「……」

思わずこぼれたつぶやきだけで察したのか、彼は申し訳なさそうに眉を寄せる。

フォイア「約束していたのにすまなかった。だが……。 こんなに綺麗な〇〇の姿を、他の誰にも見られたくないと思ってしまったんだ」

(……!)

彼は私の手の甲にもう一度唇を押しあて……

フォイア「……お前が望んでくれるなら。 改めて、今ここで俺と踊ってくれ」

〇〇「はい……よろしくお願いします」

そう答えると、彼の顔が綺麗な笑みに彩られた。

フォイア「こちらこそ」

私の手を優しく取って体を引き寄せると、ステップを踏み始め……

夜の静寂の中、フォイアさんは私を頼もしくリードする。

心臓の音まで聞こえそうなほど触れ合えば、彼の体温が全身に伝わってきて…-。

フォイア「この間、広場でも思ったが……踊るお前はとても綺麗だ。 見ていると心が熱くなって、仕方がなくなる」

彼の声はほんの少しだけ震えていて、その奥にある想いを感じさせる。

彼の気持ちに呼応するかのように、小さな炎が花びらのように辺りに漂い始めた。

(剣舞の時とは違う、穏やかで優しい炎……)

炎に感じる温かさは、フォイアさんに抱きしめられた時の温もりとよく似ていた。

フォイア「〇〇……俺が焦がれる姫」

顎に手をかけられて、間近でフォイアさんと見つめ合う。

フォイア「……愛している」

そのたった一言で、私の体は爪先まで熱くなって…-。

〇〇「私も……」

全身に宿るこの熱を、言葉にするのであれば……

〇〇「私も……あなたを愛しています」

そう告げると、フォイアさんの潤んだ瞳が嬉しそうに細められる。

やがて彼の顔が近づき、唇がゆっくりと重なり合った。

(フォイアさん……)

星々の瞬きと、柔らかな炎の揺らめきに照らされながら……

私達は、胸が焦がれるほどの想いを交わし合ったのだった…-。

おわり。

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