月7話 どうぞ、召し上がれ!?

呆然としている間に、湯けむりがヴィクトルさんの姿を隠していく。

〇〇「ヴィクトルさん、待ってください! そこに入ると…-!」

慌てて追いかけ、ヴィクトルさんに声をかけるけれど…-。

ヴィクトル「ん?」

〇〇「!」

止める間もなく、ヴィクトルさんはもう服を脱ぎ始めていた。

あらわになった彫刻のような体から、慌てて視線を逸らす。

(びっくりした……)

勝生勇利「なんで、そんなに簡単に脱ぐの! 駄目だって!」

手の中の勇利さんが、怒ったようにカツ丼から湯気を吹いた。

ヴィクトル「どうしたの?」

〇〇「あ、あの……。 何が起きるかわからない温泉で……入るのはやめておいた方がいいかもしれません」

ヴィクトル「何か起きる? 楽しそうだね!」

勝生勇利「逆効果!?」

〇〇「で、でも……本当に取り返しのつかないことになるので!」

ヴィクトル「ふむ……なら仕方ないね。残念」

肩をすくめると、ヴィクトルさんは湯船に触れそうになっていた足を引いた。

勝生勇利「よかったああああ! ありがとおおお」

〇〇「それよりも、ヴィクトルさん! 勇利さんが大変なことに!」

ヴィクトル「勇利? 勇利どこにいるの? もう温泉に入ってるの?」

ヴィクトルさんは勇利さんを探して、辺りをきょろきょろと見渡す。

そんなヴィクトルさんに、私は恐る恐る手の中のカツ丼を差し出した。

ヴィクトル「わ~! カツ丼だ」

〇〇「これが勇利さんです」

ヴィクトル「え?」

勝生勇利「ヴィクトル……」

ヴィクトル「これが勇利!? わお! アメージング!」

カツ丼を手に、ヴィクトルさんが瞳を輝かせる。

〇〇「元に戻る方法を探してたんですけど、見つからなくて……」

勝生勇利「僕はもう元の姿には戻れないかもしれないんだ……。 ヴィクトル……こんな僕でもコーチを続けてくれる? 僕はヴィクトルとまた滑りたいよ」

勇利さんの切なる願いが私だけに聞こえているのかと思うと、いたたまれなくなる。

ヴィクトル「そうか……」

一言だけそうつぶやくと、ヴィクトルさんはそっと丼を撫でた。

勝生勇利「ヴィクトル……」

ヴィクトル「おいしそうなカツ丼になってまで、勇利はエロスを追求したかったのかな。 俺が目を離さないように、虜にしようとしてるんだね。これが勇利の究極のエロス」

勝生勇利「そういうつもりじゃなかったんだけど……たまたまなっちゃっただけで」

ヴィクトルさんが小さく笑い声を立てた。

ヴィクトル「勇利の魅力は俺が一番わかっているつもりだったのに…-。 まさか俺の知らない勇利をここで見られるなんて。 おいしそうだよ、勇利。お腹が鳴って、今にも口に含んで飲み込んでしまいたいぐらい」

勝生勇利「そうかな……でも、ヴィクトルに褒められるんなら、人間の姿がよかったよ」

ヴィクトル「せめて俺がおいしく食べてあげるね」

勝生勇利「……は?」

ヴィクトル「一粒残さず食べてあげるからね……だって俺、ハラペコなんだよね~!」

勝生勇利「ヴィクトルー!?」

ヴィクトル「ダスヴィダーニャ」

そっとヴィクトルさんは丼にキスを落として、カツ丼に齧りついた。

その瞬間…-。

気づくと、ヴィクトルさんにお腹を齧られている、人間の姿の勇利さんがいた…-。

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