月SS 温泉番組でヘベレケ!?

白い湯けむりを背にして、私と勇利さんがぎこちない笑顔を浮かべながら立っている場所は……

大きなカメラの前だった。

勝生勇利「はい、温泉巡りで夢気分、いかがでしたでしょうか?」

〇〇「素敵な温泉がいっぱいでしたね」

勝生勇利「それでは、また~!」

カメラに向かってにこやかに手を振る勇利さんの隣で、私も手を振ると……

撮影スタッフ「カットー! お疲れでーす」

勝生勇利「はー、やっと終わったぁああ!」

勇利さんは緊張から解放されたように、晴れやかな表情をしている。

勝生勇利「生まれて初めて旅番組のロケなんてしたけど……ちゃんとできてたかな?」

〇〇「はい。それにしても、緊張しましたね……」

なぜ私達が廻天でこんなロケをしているのか…-。

それは、たまたま出会った映画の国のプロデューサーの方からの依頼だった。

なんでも、廻天を初めて訪れた人へ向けてのガイド番組だそうで……

勝生勇利「それにしても、どうして僕だったんだろう……」

〇〇「一般の方が共感できるようにというのが、コンセプトらしいですから」

勝生勇利「うん、そうだったね……つまり普通ってことだよね……」

〇〇「あ……ごめんなさい!」

勝生勇利「いや、いいんだ。確かに普通っていう点では、ヴィクトルやユリオより断然僕だと思うし」

ほっと息を吐いていると、勇利さんは遠巻きに見ていたヴィクトルさんとユリオ君の元へ駆け寄り……

勝生勇利「ねえねえ、どうだった?」

ヴィクトル「……」

ユーリ「……」

勝生勇利「え? 何? この間?」

ヴィクトル「普通かな」

勝生勇利「はっ? え!? なんか人に言われるとショックなんだけど!?」

ユーリ「クソつまんねー」

勝生勇利「普通よりひどい!!」

二人の反応に、私達は絶句した。

勝生勇利「雄大な景色に繊細なお湯加減、温泉旅館の息子の視点で的確にお茶の間に伝えたつもりだったのに!」

〇〇「す、すみません。私がもう少し頑張って…-」

勝生勇利「いや……ヴィクトル達が求めるものを、君に背負わせるわけにはいかないよ。 それに! 撮影スタッフさん達は皆納得してオッケーしてるじゃない」

助けを求めるように、勇利さんは撮影スタッフさん達を見た。

彼らはにこやかに、私達に笑いかけてくれるけれど……

(皆、少し苦笑いしてる……)

〇〇「あの……もしかして私達、気を使われたのかも…―」

勝生勇利「え……ええ!? そうなの? 頑張ったのに……」

おろおろしていると、ヴィクトルさんがおもむろに懐から何かを取り出し、勇利さんに握らせた。

勝生勇利「ヴィクトル、これ何?」

ヴィクトル「この地に伝わるすごーい薬膳酒だって! 飲んでみない?」

(見るからに毒々しい色してるけど……大丈夫かな……?)

勇利さんも同じことを思っているのか、表情が少しひきつっている。

勝生勇利「こ、これを? 今ここで?」

ヴィクトル「ううん、温泉で」

(温泉……)

ヴィクトルさんの興味は、すでに撮影から次へ移っているようだった。

勝生勇利「あ、ヴィクトル……お酒飲んで温泉とか入っちゃ駄目なんだ」

ヴィクトル「え~?」

勝生勇利「温泉で熱燗飲んだりするやつあるけどさ、温泉でお酒を飲むのを禁止しているところが多いんだよ。 お酒を飲んでお風呂に入ると血液の循環が良くなって。 すっごいスピードでアルコールが全身に回ってさ…-」

ヴィクトル「……そうなんだね」

残念そうに眉尻を下げるヴィクトルさんを見ると……なんだか切なくなってしまう。

勝生勇利「そ、そんな悲しそうな顔されても困るよ……!」

ユーリ「てめーがつまんねーことばっか言うからだろ」

ヴィクトル「露天温泉にお銚子でお酒……憧れてた世界は、ファンタジーだったんだね。 ネットに上げたかったのに……」

勝生勇利「え? 何この空気……もしかして僕が悪いの?」

(ど、どうしよう)

焦りが込み上げてきた、その時だった。

ヴィクトル「アメージング! すごーい味だ!」

勝生勇利「結局ここで飲んでる!?」

撮影スタッフ「お! いいリアクションだ!!」

ヴィクトル「カイテンよかとこ一度はおいで~♪」

勝生勇利「サービス精神満点! しかも撮影スタッフさん達ものすごく嬉しそう!」

ユーリ「はっ! そりゃそうだろ、カツ丼撮ったってしょうもねーよ」

勝生勇利「うう……僕だって……!!」

撮影スタッフ「お~! あのすごーい味を一気に!」

(そんなに、すごい味なんだ……)

ヴィクトル「わーお! いいね、勇利!」

(なんだかんだで……すごく楽しそうにしてるみたい?)

そんなことを考えていた、その時だった。

撮影スタッフ「はいカットー!」

スタッフさんの声が響き、私達はいっせいに顔を振り向かせる。

(カメラ……いつからまた回ってたんだろう)

〇〇「……いい映像、撮れました?」

撮影スタッフ「はい! たとえ異世界から来ても楽しめる廻天! いい画が撮れました!」

撮影スタッフさん達が満足そうに笑う。

その後見せてもらった映像には……

なんだかんだで楽しそうに騒ぐ、3人の様子が記録されていたのだった…-。

おわり。

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