月最終話 傍にいて欲しい

次の日の朝・・・・・・

待ち合わせの玄関へと、はやる胸をおさえて向かう。

(イリアさんはもういるかな?)

柔らかな笑顔を思い浮かべて、胸が高鳴る。

と、その時・・・-。

イリア「○○様」

想いを馳せていたその人が、私を見つけて微笑んだ。

○○「お待たせしました」

イリア「いいえ、では行きましょうか」

○○「はい!」

イリアさんと並び、歩き始める。

けれどその時・・・・・・

○○「・・・・・・?」

不意に視線を感じて振り向くと、階段の上で王妃様がこちらに冷たい視線を向けていた。

イリア「どうされましたか?」

足を踏み出せなくなった私の方を、イリアさんが振り向く。

○○「あ、あの・・・・・・イリアさん。今日のご公務は大丈夫なんですか?」

イリア「大丈夫ですよ。やるべきことは終わらせてありますから」

そう言うと、彼は王妃様に気がついて、微笑んで軽く一礼する。

○○「そう・・・ですか・・・・・・」

戸惑いながらも私も頭を下げ、イリアさんに向き直る。

イリア「さあ、行きましょう」

イリアさんが促すように私に微笑みかける。

○○「はい・・・・・・」

その日はイリアさんと楽しいひと時を過ごせたけれど・・・・・・

いつまでも王妃様の視線が背中に突き刺さっているようで、私の不安は消えることがなかった。

・・・

・・・・・・

私が王妃様から呼ばれたのは、その翌日だった。

王妃「○○様、楽しんでいただけていますか?」

王妃様は、上品で優しい笑みを浮かべている。

けれどどうしても落ち着くことができず、私は身を固くして王妃様に向き合った。

○○「はい・・・・・・」

王妃「そう、それはよかった・・・・・・イリアとも仲良くしていただいているようで・・・・・・。 けれどイリアは今、とても大事な時期・・・・・・公務に差し障りが出てしまっては困りますわ」

王妃様の瞳が、私をまっすぐに見据えている。

(そっか・・・・・・お忙しいのに、ご迷惑だったかな)

(イリアさん優しいから、気がつけなかった)

(浮かれてしまって、恥ずかしい)

○○「王妃様」

王妃「何かしら?」

(これ以上、優しいイリアさんにご迷惑をかけたくない)

一つ息を吸うと、私は意を決して口を開いた。

○○「私、そろそろ・・・・・・帰らせていただきます」

王妃「そう? 残念ね」

言葉とは裏腹に、王妃様は満足そうににっこりと微笑んだ。

・・・

公務を終わらせたイリアが、○○の部屋を訪れる。

荷物がなくなっていることに気がつくと、イリアはハッと息を呑んだ。

王妃「○○様なら、帰られました」

イリア「え・・・・・・?」

王妃「もっと長居すればいいのにとお引止めしたのですが、残念ですわね。 でも、これでイリアもようやく落ち着いて・・・-。 イリア・・・・・・!?」

王妃の言葉を聞き終わらないうちに、イリアは走り出していた。

(ご挨拶、すればよかったかな)

正面玄関へと向かいながら、私は広い廊下を見渡した。

楽しい思い出が、あの優しい笑顔と一緒にあちこちに残っている。

(さようなら、イリアさん・・・・・・)

お別れを言うのが辛くて、イリアさんに何も言わずに準備をしたのに、

今さらになって寂しさが押し寄せる。

その時・・・・・・

イリア「○○様!」

私を呼ぶ声に、足を止めた。

振り返ると、イリアさんが息を切らして私の方へ駆け寄ってくる。

○○「イリアさん・・・・・・!」

勢いよく抱きしめられて、そのまま床へと倒れ込む。

○○「っ・・・・・・!」

イリア「あっ、あの・・・・・・すみません!」

ドキドキと痛い程に高鳴る胸を抑えながら、私は覆いかぶさるイリアさんの顔を見上げた。

イリア「帰らないでください・・・・・・」

○○「イリアさん・・・・・・」

イリア「こんな気持ちは初めてで、どう伝えていいのかわからないんです・・・・・・けれど! 貴方が私の傍を離れることは・・・・・・耐えられない」

○○「っ・・・・・・!」

イリアさんの熱い気持ちが、胸を高鳴らせていく。

イリア「少しだけでいい・・・・・・貴方がご迷惑でなければ・・・・・・ここに・・・・・・」

○○「ですが私がいたら・・・・・・イリアさんのお仕事に支障が・・・・・・」

イリア「誰がそんなことを?」

○○「その・・・・・・」

イリア「母上・・・・・・ですか・・・・・・?」

○○「・・・・・・」

イリア「すみません・・・・・・貴方に心苦しい思いをさせてしまいました。 けれど誰が何と言おうと、私は貴方に傍にいて欲しい。 そのためであれば、どんな努力だろうと惜しまない」

真剣な瞳が、私を射抜く。

○○「ありがとうございます・・・・・・。 あの、イリアさん・・・・・・その」

私は、まだ彼に押し倒されたようなままの状態だった。

イリア「すっ・・・・・・すみません!」

慌てて起き上がるイリアさんの顔が、恥ずかしさに赤く染まっている。

○○「えっと・・・・・・」

私の胸もうるさいほどに音を立てていたけれど・・・・・・

○○「イリアさんがそうおっしゃってくれるなら、喜んで」

彼の真剣な言葉に答えたくて、素直な気持ちを伝えた。

イリア「○○様・・・・・・」

イリアさんの美しい瞳が、安心したように揺れる。

彼の腕が伸びて・・・

(胸が破裂しそう・・・・・・)

思わずぎゅっと目を閉じると、優しく抱きしめられた。

まぶたの裏に、二人で見たいろんな景色がよみがえる。

(一緒に見た景色、綺麗だったな)

(もっと、一緒に見られたら・・・・・・)

イリア「お慕いしております・・・・・・」

彼の声が、耳元で優しく響く。

彼といるために超えていかねばならないたくさんのことに思いを巡らせつつ、私はイリアさんの背をそっと抱きしめるのだった・・・-。

おわり。

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