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○○「私は……それなら、黒猫の衣装がいいかなと思います」
ペルラ「黒猫? どうして?」
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私の回答に、ペルラさんは意外そうに首を傾げる。
ペルラ「黒もいいかも……か。初めて言われたような気がする」
○○「そうなんですか?」
ペルラ「うん。ぼくの国では黒って、あまりいいものとされないから」
そう語るペルラさんの声は、最後には小さなつぶやきとなった。
その瞬間、自分の発言にハッと後悔をする。
(黒……きっと、ブラックパールを想起させるから)
それは、関わった者達を死に追いやるという、恐ろしい真珠……
激しい憎しみや怒りの感情により、ペルラさんの瞳から生み出される恐ろしいものだった。
○○「ペルラさん。ごめんなさい、私また…―」
思わず顔をうつむかせてしまうと……
ペルラ「気にしないでいいよ」
猫のように丸められた彼の手が、そっと、私の頬を撫でる。
優しい感覚に、私の心が甘く疼いた。
ペルラ「怒ったり悲しんだりしてるわけじゃない。 むしろ……素敵だって言ってもらえて嬉しい、かな」
○○「ペルラさん……」
もう一度私の頬を撫で、彼は長いまつ毛を美しく伏せる。
ペルラ「じゃあ、方向性も決まったし…―。 彼のところへ行ってくるよ」
○○「彼?」
問い返す私に、ペルラさんは意味ありげに頷いたのだった…―。
…
……
そして…―。
○○「よかったですね、ペルラさん」
ペルラ「うん。まさか、ウィル王子の衣装班の人が用意してくれるとは思わなかった」
人通りの多い道を避けながら、私達は宿へと向かう。
(ウィルさんのところに行くって聞いた時は、少し驚いたけれど)
衣装の詳細を詰め、ウィルさんに仕上げを相談しに行ったところ……
ウィルさんはペルラさんの衣装をいたく気に入ってくれ、仕立てにスタッフを用意してくれた。
ペルラ「きみのおかげだよ。いい衣装ができそうで嬉しい。 あ……けど、さっきの悪戯はびっくりした」
ペルラさんの言葉に、ウィルさんが悪戯をして驚かせてきたことを思い出す。
○○「こんなことなら、お菓子を持って行けばよかったですね」
ペルラ「うーん……まあ、あの人、お菓子をあげても悪戯しそうだけど」
(人の怖がる顔が大好きだって、聞いてはいたけれど……)
突然現れた大きなかぼちゃや、特殊メイクが施されたお化け達……
ウィルさんの大がかりな悪戯に、私は何度も悲鳴を上げてしまった。
ペルラ「でも……。 なんだかんだで、きみすごく楽しそうだったよね」
○○「え!? そんなこと…―」
ペルラ「そんなこと、ある」
少し怒ったような彼の声に、私は首を傾げる。
(ペルラさん……? 急にどうしたのかな?)
不思議に思い問いかけようとすると、すぐにペルラさんは私に顔を向け……
ペルラ「まあ……いいか」
何かを振り払うように首を横に振って、ペルラさんは私に向き直った。
○○「あの…―」
ペルラ「今日のお礼に、お菓子を買ってあげるよ」
○○「っ……」
ペルラさんの綺麗な手が、私の手を包み込む。
ぎゅっと、力が強く込められて……
ペルラ「……子どもだな、ぼく」
繋いだ手の温かさと、誰にいうでもない彼のつぶやきが、私の胸をくすぐった…―。