ウィル王子のところに行った帰り道…―。
ぼくはもやもやした感情を持て余していた。
(明らかに、嫉妬だ……)
ウィル王子に悪戯される彼女を見ていたら、重い感情に胸が支配されていって……
(だからってこんなこと……子どもだな)
仕返しするつもりなんてなかったのに、ぼくは今、○○に意地悪をしている。
ペルラ「ぼくが食べさせてあげる。だから、あーん……」
お菓子をそっと彼女の唇へ寄せると、○○は恥ずかしそうに頬を染める。
(なんでそんな、もっと悪戯したくなっちゃうようなかわいい顔するかな)
なんだか楽しくなってきたぼくが、唇を小さく開く彼女を見て…―。
ペルラ「やっぱり、あーげない」
○○「えっ!」
彼女の唇に迫るお菓子を、ぴたりと止めてみせる。
○○「……ペルラさん?」
ペルラ「ぼく、お菓子をあげなかったよ? ……その場合って、悪戯されちゃうんだよね? ……ぼくが喜ぶ悪戯、考えてみてくれない?」
○○「……っ」
(ふふっ。きみはどんな悪戯、考えてくれるのかな?)
胸がドキドキしてくる。
困惑気味に揺れる彼女の瞳は、やっぱりかわいかった。
ペルラ「ねえ、悪戯は……?」
ぼくは彼女との距離を詰め……そっと囁いてみる。
ペルラ「ぼくに、悪戯しないの?」
○○「あ、あの、だって……今は従者さんも見てますし……」
その言葉を聞くと、ますます意地悪な気持ちが込み上げてきてしまう。
ペルラ「へぇ……従者に見られたら困るような悪戯、考えてたんだ」
○○「っ……!」
ペルラ「していいよ? きみがぼくにしたいこと、全部」
さらに顔を近づけ、従者には聞こえないように、彼女の耳元で囁く。
すると、○○の体がびくりと震えた。
(収穫祭のせいなのかな? それとも、きみのせい?)
(こんな気持ち……初めてだよ)
さっき彼女にあげるはずだったお菓子を、自分の口の中へ放り込む。
ペルラ「○○……?」
ゆっくりと顔を近づける。
唇が触れる瞬間、彼女のまぶたが静かに閉じた。
(○○の唇は、お菓子なんかよりずっと……甘い)
従者の目を気にしているのか、彼女がぼくの腕の中で身じろぐ。
ペルラ「……しないの? だったら…―」
○○の頬を舐めると、彼女は体を震わせた。
○○「……っ」
ペルラ「パレードでは、猫になりきらないといけないからね……?」
猫が甘えるようにそう言ってみると、○○がぼくの頬をそっと撫でてくれる。
(くすぐったくて、気持ちいい……)
ペルラ「……それが、悪戯? かわいいね」
ぼくはマシュマロを口にくわえ、彼女にキスをする。
○○「ん……」
ぼくと彼女の口の中で溶けていくマシュマロはとびきり甘くて……
名残惜しい気持ちでぼくは、唇を離した。
ペルラ「……はい。ちゃんとあげたからね」
○○の手を取り、歩き出す。
収穫祭で盛り上がる街を歩いていると、気持ちが高揚していく。
ペルラ「にゃー」
猫の鳴き真似をしてみるけれど、彼女はまだ呆然としたままだった。
ペルラ「どうしたの?」
瞬く瞳がぼくを見つめて……胸の中心がぐんと熱くなるのを感じた。
ペルラ「ねえ」
○○「っ……」
○○の耳にもう一度、唇を近づけて……
ペルラ「二人きりにならない……?」
○○「え…―」
返事を待たず、ぼくは彼女の手を取り駆け出す。
ペルラの従者「あっ、ペルラ様……!」
(もう、宿はすぐそこだし……)
ペルラ「先に帰ってる。行こう、○○」
○○「っ……」
夜の闇を裂くように、ぼくは走る。
(こんなに走るのなんて、いつぶりかな)
(気持ちいい……)
そう思いながら振り返ると、○○が、困ったように笑っていた。
(あ……)
一匹の黒猫が、道の脇からぼく達を眺めている。
けれどその猫はすぐに、すっと曲がり角に姿を消して……
ペルラ「黒猫の衣装、早く欲しいな。 そしたら、夜にまぎれて、きみとどこまででも行けそう」
つい、そんなことを言ってしまう。
○○「え…―」
ぼくが急に立ち止まったからか、彼女は転びそうになってしまって……
○○「……っ」
よろけた彼女の体を抱きとめた。
○○「ペルラさん……」
月明かりが、彼女の顔の輪郭を綺麗に縁どるけれど……
ペルラ「きみと二人、夜に溶けて……そしたら…―」
○○「……!」
○○を引き寄せ、キスを落とした。
ペルラ「悪戯し放題だね」
胸がドキドキして、どうしようもない。
どこからか、猫の楽しそうな鳴き声が聞こえてきた…―。
おわり。