月7話 兄になった、その時

赤ん坊の泣き声が、部屋に集まった人々の顔をほころばせている。

ホープ「〇〇……」

ホープが今見ている光景は、〇〇が生まれた、その瞬間だった。

夢王「おお……! なんと愛らしい!」

王妃「ふふ……ほら、この目尻。あなたに似ていますよ」

ベッドに横たわる王妃は憔悴していたが……今生まれたばかりの新しい命に、幸せそうに微笑んでいる。

夢王「よく頑張ってくれた……! うう……」

王妃「もう、泣かないでくださいな。その子がびっくりしてしまいますわ」

夢王「そ、そうだな……」

王妃はくすりと笑みをこぼし、視線を部屋の扉の方へ向けた。

王妃「……ライト、ホープ」

少しだけ開いた扉の隙間から、幼い二人の兄弟がじっと〇〇を見つめている。

夢王「ホープ、ライト! ほら、こっちへ来なさい。 お前達の妹だ」

夢王の言葉に、二人はゆっくりとベッドの傍まで歩み寄る。

幼いホープ・幼いライト「……」

そして、夢王が抱いている生まれたばかりの、小さな妹の手をそっと触れた。

幼いホープ「小さい……」

幼いライト「僕達の、妹……?」

おずおずと、二人が父の顔を見上げる。

夢王「そうだ。お前達がしっかりとこの子を、守ってやりなさい」

幼いホープ・幼いライト「……」

兄になった二人は、互いに顔を見合わせ……そして、しっかりと頷いた。

幼いホープ・幼いライト「はい!!」

ホープ「……」

ホープは部屋の隅で、もう戻らない光景を見つめていた。

ホープ「約束を……守ることはできなかった」

今ホープの脳裏に浮かぶのは、成長した〇〇の悲しそうな顔ばかり…-。

幼いホープ「……」

ホープの傍に、光をまとった幼いホープが寄り添う。

ホープ「〇〇は、俺達の光だった。 ずっと……そうだと、思っていたのに」

(その光を、俺はいつしか手放してしまったのか……?)

(愛していた。愛していたのに……俺は見ようとしていなかったのか?)

―――――

〇〇『ホープお兄ちゃん。 一緒に……光を見つけよう』

―――――

(〇〇は、俺に光をくれようとしていたのに)

幼いホープ「……人は、ひとりでは生きていけない。 光が消えそうな時は、傍にいる誰かに灯してもらうんだ。 でも、俺達は…-」

ホープ「言うな!!」

ホープが語気荒く叫ぶ。

ホープ「わかっている。 わかって……いるんだ」

声を震わせながら、ホープは手で顔を覆う。

だが涙は見せないまま、ゆらりと歩き出した。

彼のつま先や指先の輪郭が、光を放ち薄れてきている。

ホープ「……もう長くないな」

幼いホープ「……どこへ?」

ホープ「あいつに言い残した言葉がある」

ホープはふっと、口の端を引き上げる。

それは自嘲のような……それでいてどこか誇らしそうな、そんな笑みだった。

ホープ「最後くらい、奇跡を信じてみてもいいだろう。 俺は……夢王の弟、なんだからな」

幼いホープ「……うん」

幼いホープが、満足そうに目を細める。

幼いホープ「これで……これでもう…-」

そうつぶやきながら、彼は淡い光を放ち……

やがて景色に溶けていった。

ホープ「……やきもきさせて、悪かったな」

幼い自分に対して、ホープは懺悔するように囁きかける。

そして家族の明るい笑い声を背にして、独りその場を立ち去るのだった…-。

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