花誓式を翌日に控えた夜…-。
僕はベッドに横たわり、昼間会ったおじいさんの言葉を頭の中で反芻していた。
(この僕の言葉に感心するわけでもなく、意味ありげに笑ったりして……)
シュニー「……いったいなんなのさ」
よくわからないけど、なんだかむっとするから早く忘れてしまいたい。
だけど、なぜかその言葉がぐるぐると頭の中を回って離れなくて…-。
シュニー「あの人、騎士の精神がどうとかって言ってたけど……」
いつか本で読んだ内容を思い返してみても、わかった気になっていた内容が今は空っぽのように思える。
シュニー「……一番大切なもの?」
―――――
シュニー『高潔なる雪の一族として、スノウフィリアを守る。それが一番大切なことだよ』
―――――
当たり前のように口にした言葉も、心の中で揺らいでしまう。
(どうして? 何も間違ったことは言ってないはずなのに)
シュニー「……だけど、何か違う気がする。 もっと大切なものがあるような…-」
そう思い至った瞬間…-。
―――――
〇〇『でも、一緒に国を守る騎士のことをもっと知れたら……。 誰よりも強くて、皆に慕われる立派な王子になれるんじゃないかなって……』
――――――
〇〇の優しい笑顔が頭に浮かんで、頬がじわりと熱くなった。
シュニー「僕にとって一番大切なものって……」
はっとすると、胸につかえていたものがすとんと落ちる気がする。
(……騎士は、自分の命に代えてでも大切な誰かを守り通すもの)
(僕はあいつが困ってる時や苦しんでる時、そんなふうに戦える?)
そう自分に問いかけると、答えよりも先に笑みがこぼれた。
シュニー「そんなこと……考えるまでもない」
僕は電気を消して、穏やかな気持ちで布団の中にもぐり込んだ…-。
…
……
花誓式は神聖な空気の中、滞りなく行われた。
(晴れやかで厳かで……こんな気分初めてかも)
(あのおじいさんに出会わないで、何も考えずに出ていたら……)
(こんなふうに感じなかったかもしれない)
だけど、女神様が喜んでいるという〇〇の言葉に、僕は首を傾げた。
(忠誠心を感じて、女神が喜ぶって……当たり前のことなのに、どうして喜ぶの?)
すると、そんな僕に〇〇が首を傾げながら口を開いた。
〇〇「上手く言えないんですけど……。 忠誠を誓うことは、大切な人と約束をすることなんじゃないかって思うんです」
シュニー「約束?」
〇〇「大切な人を思い、守り、これから一緒に歩んでいくという約束……です」
(これからも、一緒に……)
その言葉が、深く僕の心に響いていく。
シュニー「……お前は?」
〇〇「え?」
シュニー「僕が忠誠を誓ったら、お前は嬉しいの?」
〇〇「それは……はい。そんな約束ができたら嬉しいです。けど……」
僕を見て言い淀む姿に、苦笑してしまう。
(考えてること、丸わかりなんだけど)
(お前がそう思ってるなら、ちゃんとわからせてやらないとね。主人として、きっちり)
シュニー「……一度しかやらないからね」
〇〇「……!」
騎士のように跪き、〇〇の顔を見上げる。
シュニー「僕はお前だけの騎士だ」
〇〇「え……」
シュニー「僕の女神……。 どんな時も、僕は貴女をすぐ傍で守ると……ここに誓います」
まっすぐに見つめてそう言えば、〇〇の頬が赤く染まっていく。
(これが、僕の本心だよ。お前のことは、僕が守ってあげる)
〇〇「シュニー君……」
〇〇は立ち尽くしたまま、僕の目をじっと見つめた。
にじむように赤みを増す頬や、揺れる瞳が、今日はやけに僕の胸を騒がせる。
シュニー「……何、ぼけっとしてるの?」
汚れた膝を叩きながら立ち上がる。
〇〇「だ、だって……」
シュニー「言っておくけど……今の言葉は、嘘じゃないよ」
改めて言うと、〇〇が動揺したように息を呑む。
(……そういう顔をされると、からかいたくなるんだよね)
シュニー「その顔、言葉だけじゃ足りないってこと?」
〇〇「っ……」
恥ずかしげに揺れる瞳に、思わず口元が緩む。
僕は少しだけ背伸びすると、愛しさを込めてその赤い頬に誓いのキスを落としたのだった…-。
おわり。