月最終話 宴の後で……

潮見の鐘を鳴らした私達は、日付が変わる前にセント・ガブリエル号へと戻る。

甲板では、船員さん達が陽気に歌いながらお酒を酌み交わしていた。

船員1「ダグラス様! お早いお戻りで!」

真っ赤な顔の船員さん達に、ダグラスさんが苦笑する。

ダグラス「おいおい、随分出来上がってるな」

船員1「そんなことありませんよ~。おい、皆、ダグラス様に酒を」

船員2「酒ならここに……って、あれ?」

船員3「おい、こっちの酒を……あ、こっちももうない」

ダグラス「お前ら、勢いよく飲み過ぎだろう」

船員1「す、すみません! ちょっと酒を調達しに…-」

ダグラス「大丈夫だ」

ダグラスさんが、ニヤリと笑う。

ダグラス「おい、ちょっと手伝ってくれるか?」

ダグラスさんは数人の船員さん達に声をかけると、甲板から下りていった。

(ダグラスさん、どうしたんだろう……?)

ほどなくして甲板に運ばれてきたのは、大きな樽だった。

船員さん達が、興味津々に集まってくる。

ダグラス「こよみの国から、いい土産をもらったんだ。アンキュラではなかなか手に入らない代物だぞ」

その時、海に響いていた潮見の鐘の音が止み、静寂が訪れた。

赤と白の紐が大きな木槌を肩に背負い、ダグラスさんが声を上げる。

ダグラス「さあ、日付が変わる。祝い酒といこう!」

船員さん達の間にも沈黙が漂い……

一年の終わりを知らせるように、連続して鐘の音が響き渡った。

(すごく綺麗な鐘の音……)

勢いよく木槌が振り下ろされ……

パーンっと小気味いい音が響き渡り、樽の蓋が割れた。

船員達「おおー!」

甘いお酒の香りが漂い、船員さん達から喜びの声が上がる。

船員1「楽しい飲み方ですね!」

船員2「皆でいただこうじゃねーか!」

新年が訪れた感慨に浸る間もなく、船員さん達は配られた枡にお酒を注ぎ始めた。

〇〇「皆さん、すごく喜んでいますね」

ダグラス「この辺りでは樽酒は栓を挿して飲むのが一般的だからね。この豪快さは珍しくて楽しいよ」

船員1「ダグラス様! これは飲んだことのない味です!」

ダグラス「そうだろう。なんでも、米から作った酒らしい」

船員2「それは贅沢ですね。うん、とにかく美味しい!」

甲板は再び、陽気な笑い声と歌声に包まれた。

ダグラス「はい、これは〇〇の分」

ダグラスさんから、お酒がなみなみと注がれた枡を受け取る。

〇〇「ありがとうございます」

ダグラス「それじゃあ、君と俺の新しい年に…-」

ダグラスさんが、私の枡に自分の枡を軽くぶつける。

透明の液体が波打って…-。

ダグラス「あー、やっぱり美味しいな!」

そう言いながら枡いっぱいにお酒を注ぎ足す波を見て、笑みが漏れる。

甲板を通り過ぎる風が、頬を心地よく撫でていった…-。

……

夜も深まった頃…-。

酔ったというダグラスさんに付き添い、私は彼の部屋を訪れていた。

〇〇「大丈夫ですか? 今、お水を持ってきますね」

彼をベッドに座らせて踵を返そうとした時、ダグラスさんがそっと私の手首を掴む。

彼は私をまっすぐ見つめていて…-。

〇〇「ダグラスさん?」

首を傾げた、その時…-。

〇〇「……っ!」

手を引かれ、私は彼の上に倒れ込んでいた。

ダグラスさんを見下ろす形になり、普段は見られない表情に胸がとくんと打ち鳴る。

〇〇「あ、あの、ダグラスさん……結構酔ってますか?」

動揺した私の言葉に、ダグラスさんはニヤリと笑った。

ダグラス「どう思う?」

悪戯なその笑みが、すべてを物語っている。

〇〇「……酔っているのかなと思いましたけど、そんなことないみたいですね」

からかわれたことに気づいて、彼の上からどこうとするけれど……

ダグラス「いや、酔ってるよ? 君と新年を迎えられた喜びに、酔ってる」

〇〇「ダグラスさん……」

低くて甘い囁き声が、私の心を捕らえてしまう。

ダグラス「そうやってちょっと困ったように照れる君の顔、好きなんだ」

ダグラスさんが下から手を伸ばし、長い指で私の髪を掻き上げる。

その手が、私の肩を力強く抱き寄せて……

ダグラス「もっといろんな顔が見たいけど…-」

〇〇「え……?」

体が浮いたかと思うと、くるりと体勢を逆転させられていた。

柔らかいベッドに、私の体が沈む。

〇〇「あっ……」

エメラルドグリーンの瞳がすぐそこで私を見下ろしている。

ダグラス「さっき、君との時間がこれからも続きますようにって祈ったけど、ちょっと訂正」

ダグラスさんの唇が、私の首筋に触れた。

〇〇「……っ」

ダグラス「俺は君との、甘い時間が欲しいんだ」

私を求めるように、何度も首筋に熱いキスが落とされる。

〇〇「ダグラスさん…-」

鼓動が早鐘を打ち、呼吸が浅くなっていく。

息吐く間もなく、私の唇は彼に奪われていて…-。

ダグラス「蕩けてしまいそうなその顔も、甘く濡れる声も……君の全部が、俺は好きだよ」

耳を撫でる囁き声が、私の体を火照らせる。

指を絡めてシーツに縫い付けられ……

新年初めての夜は、二人の吐息に溶けていった…-。

おわり。

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