古びたドアが軋んだ音を立てた。
隠れ家に戻り、薄暗い部屋の中を見渡す。
グウィード「やれやれ……。 まさか彼ら以外にも僕を捕まえようとするものがあるとは……」
肩から重い荷物を降ろすように、深く息を吐き出した。
別段思い入れがあるわけではないが、慣れた部屋は心を落ち着かせる。
(運命は、いつも僕の望まないものを連れてくる……)
窓辺に飾っていた花を見やった。
色を失ったミモザが、床に花びらを落としている。
グウィード「枯れてしまったか……」
その花を手に、あの子のことを思い返した。
―――――
グウィード『可愛い子猫ちゃんだ。君が僕を目覚めさせてくれたのかい? 生憎だが、僕はすぐに行かなくちゃいけないんだ。 子猫ちゃんへのお礼は、また今度させてもらうよ♪ じゃあね』
―――――
手の中のミモザが、壊れて指の隙間から零れ落ちていく。
グウィード「あの子をそのままにしてきてしまったけれど、さて、どうしたらいいかな……」
彼女のまっすぐに向けられる瞳。
あの瞳が、頭から離れない。
(目覚めさせてもらったからと言って、これ以上関わらない方がいい)
僕の中で、何か予感めいたものがあった。
(彼女はきっと、僕の世界を壊してしまうと……)
(けれど……)
(彼女にまた会いたいと思っている自分もいる)
(本当に運命は思い通りにいかない)
窓から外を眺めると、空にはもう星が瞬いている。
グウィード「今夜は星が綺麗だ……」
窓を開け、星に引き寄せられるように縁に足をかける。
(まるで、星と同じ引力だ……)
(彼女に会ってはいけないと思いながら、彼女に会いに行こうとしている)
自分の中の相反する気持ちに応えられないまま、縁を蹴り外へ飛び出した。
舞い散る星々の中を飛び、僕は彼女のもとへ向かう。
(もう寝てしまっただろうか?)
灯りの落とされたベランダに、静かに降り立って…-。
(出てきて欲しいが、出てきて欲しくない……)
そんな複雑な気持ちを抱きながら、ドアをノックした。
彼女がベランダに出て、辺りを見渡す。
その姿を、静かに後ろから見つめた。
(会ったばかりなのに、君は僕にどんな魔法をかけたんだろう)
冷たい外気に、彼女の肩が震えた。
(いや、そんな事を考えても無駄か……)
(もう僕は走り出してしまっているんだ)
(どんなにダメだとわかっていても……)
(君と出会った時から)
僕は後ろからそっと彼女を抱き寄せた。
〇〇「っ……!」
グウィード「Ciao、子猫ちゃん。迎えに来たよ♪」
彼女が目を見開いて、僕を見上げる。
そんな彼女に、僕は平静を装って笑いかける。
〇〇「グウィード……さん!?」
(この結末はいったいどうなるのだろうか?)
(答えはきっと、星が教えてくれるだろう)
グウィード「さあ、一緒に星を捕まえに行こうか♠」
彼女を腕に抱き、夜空へ飛び立つ。
星のきらめきが静かに僕達を包んでいた…-。
おわり。