グレイシア君の姿を見た人々は、驚き一色に染まった。
そして…―。
城の女官「グレイシア王子……よくぞご無事で!」
スノウフィリアの大臣「どれだけ皆が王子のことを心配したか!ささ、早く皆に知らせなければ……」
途端にざわめきがその場に広がり、
通路の奥からグレイシア君の帰還を聞きつけた人々が姿を見せる。
人々は口々にグレイシア君の無事を喜び、満面の笑みや涙を浮かべている。
グレイシア「……」
○○「ちゃんと皆さん、グレイシア君を見ています」
目をまばたかせていたグレイシア君の後ろから耳打ちすると、彼は振り向いて……
グレイシア「ああ……そうだな、○○」
○○「……!」
(今、グレイシア君……初めて私のこと、名前で呼んでくれた?)
○○「嬉しいです、名前で呼んでくれて」
彼にその気持ちを伝えたくて、にっこりと笑いかけると…―。
グレイシア「……!!」
グレイシア君が、赤い瞳を見開いて固まってしまった。
○○「どうしましたか?」
不思議に思って、彼の顔を覗き込むと…―。
グレイシア「な、何でもねえよ」
勢いよく、そっぽを向かれてしまった。
(グレイシア君……?)
こころなしか、彼の耳が赤く染まっているような気がした…―。
…
……
その後、帰還の報がスノウフィリア王の耳に届き、
私はトロイメアの姫として、王子の恩人として、城へ数日間滞在することになった。
だけど数日が経ち、私は気まずい気持ちを抱えていた。
と、いうのも……
○○「あ……グレイシア君!」
グレイシア「……何だよ」
○○「今日、お城の人のご案内でスノウフィリアの博物館に行くんですけど、グレイシア君も…―」
グレイシア「……俺は忙しいんだ。じゃあな」
○○「あ……」
グレイシア君の私に対する態度が、急に冷たくなってしまったからだった…―。
用意してもらった部屋の椅子に座り込んで、私は頬杖をついていた。
(私、何かグレイシア君の気に障ることをしてしまったのかな)
ぼうっと彼のことを考えていると、湖で二人で氷の湖を滑っていた時のことが思い起こされる。
(あの時は……距離なんて感じなかったのに)
大きなため息を一つ吐いた、その時…―。
??「○○様」
部屋の扉がノックされたのと同時に、誰かの声が聞こえた。
○○「はい」
扉が開くと、グレイシア君の従者の方が立っていた。
従者「グレイシア様がお呼びでして……申し訳ありませんが、お部屋まで一緒に来ていただけますか」
○○「え?」
(何だろう……)
胸の音が、自分でも驚くほど大きくなっていく。
深呼吸を一つして、私はグレイシア君の部屋へと歩き始めた…―。