俺が○○と一緒にスノウフィリア城に戻ってから、数日後…―。
○○「嬉しいです、名前で呼んでくれて」
グレイシア「……!!」
あの笑顔を見た時から何故か○○とうまく話せなくなってしまった俺は、
このもどかしい気持ちを落ち着かせるため、来る日も来る日も自室の机で本を読み漁っていた。
けれども……
グレイシア「くそっ……!全然頭に入ってこねえ!!」
苛立ちから、手にした本を部屋の隅へと投げ捨てる。
すると次の瞬間、同じように投げ捨てられていた本の山が大きな音を立てて崩れた。
グレイシア「ちっ……うるせえな」
床に散乱してしまった戦術書や魔術書の数々を片づけるでもなく、
俺は独りごちながら椅子の背もたれに深く背中を預けて天を仰ぐ。
(ったく。そもそも、何でこの俺が……)
(高潔な雪の一族が、女なんかに振り回されなきゃいけねえんだよ)
長時間酷使した目を固く閉じ、大きなため息をつく。
(……それもこれも全部、○○のせいだ)
(あいつが悪いんだ。あんなふうに笑ったりして)
(名前を呼んだぐらいで、嬉しそうに笑ったりするから……)
(全部、あいつが……)
グレイシア「……。 「……くそっ」
(本当に何なんだよ、この気持ち……)
○○のことを考えれば考えるほど、胸が締めつけられて苦しくなる。
けれど、いくら気持ちを落ち着けようと他のことをしても、あいつのことばかりを考えてしまって……
グレイシア「あー、くそっ!」
埒の空かない状況にますます苛立ちが募った俺は、
思わず机を強く叩きながら立ち上がっていた。
(畜生……この俺にこんな思いをさせるなんて、あいつ絶対許さねえ)
(この罪は一生、俺の傍で償わせてやるからな……!)
なおも募る苛立ちに、俺は机の上に乗せた手を強く握りしめた。
(……しかも……)
○○「今日、お城の人のご案内でスノウフィリアの博物館に行くんですけど、グレイシア君も…―」
(俺の気持ちも知らないで、能天気に話しかけてきやがって……)
グレイシア「……」
○○の笑顔を思い出すと、さらに心臓がうるさく鳴り始める。
グレイシア「何で俺がこんな……」
俺は、もう何度目になるのかわからないため息を吐いた。
(……こんなことがあっていいはずがねえ)
(こうなったら……)
グレイシア「おい、誰かいるか!」
苛立ちをぶつけるような声で叫ぶと、すぐに従者がやって来た。
従者「はっ……グレイシア様、お呼びで」
グレイシア「……あいつを呼べ」
従者「は……?」
グレイシア「だからあいつだよ!トロイメアの姫だ!!」
従者「は、はい!すぐに……!」
俺の剣幕に驚いたのか、従者は慌てた様子で一礼をして去っていった。
グレイシア「……ったく」
(こうなったら……直接、○○に会って解決してやる)
(俺は、高潔なる雪の一族なんだ。いつまでもこんな状態のままでいるわけにはいかないだろ……)
そう思いながらも、俺の心臓はさらにうるさくなるばかりだった。
(……くそっ、負けるか!)
自分自身を落ち着かせるように、俺はまた棚から本を取り出す。
けれど…―。
グレイシア「……」
(……やっぱり落ち着かねえ)
そうして○○に翻弄される俺は、
早く来て欲しいような、来て欲しくないような……そんな勝手な気持ちを抱きながら、
この後訪れるであろう彼女のことばかりを想っていたのだった…―。