月最終話 終わらない夢を二人で

数日後…-。

チルコ・サーカスは、クラウンさんの計らいで再びカルナバーラで公演することになった。

(モルタさん……)

煌めくスポットライトの中、彼は会場にいるお客さんの視線を集めていて……

私はその様子を、客席から見守っていた。

モルタ「……」

ステージにいる彼は、空中ブランコに揺られながら、次々と技を決めていく。

以前の演技よりも迫力を増して、モルタさんの上達は私にすらわかるほどだった。

なのに…-。

(どうして……)

鬼気迫る彼の一挙一動を見ていると、胸が掴まれたように苦しくなる。

(とても……危うげに見える)

それは、他のお客さん達も同じようで……

皆、固唾を呑んで、モルタさんの演技に見入っていたのだった…-。

……

公演が終わった後、私はモルタさんの元へ駆け寄った。

〇〇「モルタさん……!」

モルタ「〇〇さん」

公演を終えたばかりなのに、モルタさんは怖いくらいに落ち着いている。

モルタ「今日の私の演技はいかがでしたか?」

〇〇「それは…-」

モルタさんの質問に対し、すぐに答えることができない。

(前の公演の時とは全然違った。でも……)

あえて表現するなら、『死』を強く感じるような演技…-。

けれど、その言葉をそのまま口にすることはできなかった。

〇〇「前の演技と変わっていて……迫力があって、目が離せませんでした」

モルタ「変わった……ですか?」

眉尻を下げて微笑む彼の瞳には、諦めのような色が宿っている。

モルタ「おかしなことを言いますね。私は、変わりませんよ。今も、これからも。 でも……もし、何かが変わったように見えたのだとしたら……」

彼は顔をゆっくりと上げ、空中ブランコに視線を留めた。

モルタ「あのブランコの上に、私の本当の心があったのかもしれません。 あなたが受け入れてくれた、私の心が…-」

〇〇「モルタさんの心……」

何かを切望するような言葉の響きに、胸が締めつけられる。

(いつか、モルタさんが言ってたっけ……)

〇〇「モルタさんが望むものは……穏やかな『死』なんですよね」

おずおずと口を開くと、モルタさんは私を振り返って嬉しそうに微笑んだ。

モルタ「ええ、あなたが理解してくれていて嬉しいですよ」

(なら、私が感じたものはやっぱり『死』なのかな……でも)

あの演技から伝わってきたものは、むしろ抗うような激しさだった。

モルタ「〇〇さん……」

ハッと我に返ると、モルタさんの腕が私へと伸ばされていて…-。

気づけば深く、胸の中に抱き寄せられていた。

〇〇「モルタさん…―」

モルタ「穏やかな死……あなたとその日を迎えることが、最高のご褒美です」

閉じ込めるように抱きしめられて、徐々に体の力が抜けていく。

逃がさないというように、頭までしっかりと引き寄せられるけれど……

私に触れる彼の指は、とても優しかった。

(『矛盾』……)

ぼんやりと、彼が口にしていたその言葉が頭に浮かんでくる。

モルタ「……私は、『そのまま』でいることしか選べませんでした。でも……」

モルタさんの唇が、私の耳元に近づけられる。

モルタ「私が求める甘美な『死』を……それだけを掴むことなんてできない」

まるで、掴めない『死』を掴もうとしているかのように、私を抱きしめる力が強くなる。

体は痛くないのに、胸の奥は締めつけられるように切なく、苦しくて……

―――――

モルタ『生と死、大人と子ども……その狭間に取り込まれた、私は実体のない夢のようなもの……』

―――――

(そこに存在する人こそが、モルタさんなら……)

(私もあなたと一緒に、永遠に…-)

私はモルタさんの背中に手を回し、彼の想いに応えるように抱きしめた。

〇〇「私は今のモルタさんの傍に、最後までずっと…-。 傍にいますから」

絞り出すようにそう言うと、モルタさんが私も耳元で小さく笑う気配がした。

モルタ「ありがとう……ございます」

その言葉と同時に、私の頬に温かな雫が落ちる。

(これは……モルタさんの涙?)

〇〇「モル…-」

彼の名を呼ぼうとした口は、すぐに荒々しい口づけのよって封じられた。

(モルタさん……)

呼吸すら許されないような激しい口づけに、思考がだんだんと沈んでいく。

瞳を閉じれば、彼と二人で終わらない夢へと誘われていくのだった…-。

おわり

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