月SS 狭間の夢を永遠に

カルナバーラでの再公演を控えた、とある日の夜中…-。

私は一人、サーカステントを訪れていた。

モルタ「……」

テント内はただただ静かで、私の渇望する『死』が満ちているような気がするけれど……

―――――

〇〇『モルタさんの心は、どこにありますか……?』

―――――

彼女とのやり取りが鮮やかに蘇り、私はまだ生きているのだと思い知らされる。

(私の心は、どこにあるか……)

彼女の問いかけに、もう一度だけ思考を巡らせる。

過去、現在、未来……やはり自分の心の拠り所は見当たらない。

(……当然です)

(私が求める『穏やかな死』は……もう、どこにもないのだから)

大人にも子どもにもなれず、混沌にたゆたう形無きもの……

そんな私に、心などなかった。

一つあるとすれば、それは…-。

モルタ「きっと……悲しませてしまいましたね」

私の返事を聞いた時の彼女の表情が、胸に痛みを残す。

彼女を想う時だけ、自分の鼓動を確かに感じられた。

―――――

〇〇『私は……そんなモルタさんの傍にいたいと願っています』

―――――

(聞いた瞬間は、救わるような思いでしたが……)

今は……彼女を、どこへも行けない私の道連れにしてしまうことに後ろめたさを感じる。

モルタ「……」

暗闇の中、空中ブランコを見上げ目をすがめる。

彼女が目を輝かせて見てくれる、私が子どもになれる場所……

(……あそこで死を迎えられたら)

(終わらない夢の中で、私は穏やかに生き続けられるのでしょうか)

そっと、上空にあるブランコに手を伸ばす。

モルタ「〇〇さん……」

決して届かないとわかっているのに、私は必死に手で宙を掻くのだった…-。

……

そして、カルナバーラでの再演は終幕した。

公演が終わった後、彼女はどこか焦った様子で私の元へと駆けてきた。

モルタ「今日の私の演技はいかがでしたか?」

〇〇「それは…-」

私の問いかけに、彼女は戸惑いをあらわにする。

〇〇「前の演技と変わっていて……迫力があって、目が離せませんでした」

モルタ「変わった……ですか?」

思いがけない答えが返ってきて、私はつい笑みを漏らしてしまった。

モルタ「おかしなことを言いますね。私は、変わりませんよ。今も、これからも」

(変わったはずなどありません)

(私は……悲しいほどに変われなかったのですから)

私は目を閉じて、公演の時の自分を蘇らせる。

宙に身を投げ出したその時、ふと……彼女の姿がよぎったことを思い出す。

モルタ「でも……もし、何かが変わったように見えたのだとしたら……」

顔を上げ、今は天井から垂れている空中ブランコを見上げる。

モルタ「あのブランコの上に、私の本当の心があったのかもしれません。 あなたが受け入れてくれた、私の心が…-」

〇〇「モルタさんの心……」

生と死の狭間で、私は永遠に揺らぎ続ける。

(どちらに寄ることもなく揺れる中で、穏やかな死を願い続ける)

(そしてあなたもそこにいてくれることを……求めています)

〇〇「モルタさんが望むものは……穏やかな『死』なんですよね」

私の気持ちが通じたように、彼女がその言葉を口にした。

モルタ「ええ、あなたが理解してくれていて嬉しいですよ」

けれど腑に落ちないのか、〇〇さんはまた何やら考え込んでしまった。

(……ありがとうございます)

(こんな私を、受け入れてくれて…-)

彼女への愛しさが募ると共に、また後ろめたさが湧いてくる。

その思いを払うように、私は…-。

モルタ「〇〇さん……」

彼女に腕を伸ばして、その体をぐっと引き寄せた。

モルタ「穏やかな死……あなたとその日を迎えることが、最高のご褒美です」

(叶わない夢だとわかっていても)

(それでも……私はあなたを手放せない)

〇〇さんを深く抱きしめると、次第に彼女の体の力が抜けていく。

モルタ「……私は、『そのまま』でいることしか選べませんでした。でも……。 私が求める甘美な『死』を……それだけを掴むことなんてできない」

わかっているのに、胸が痛くてたまらない。

(心などないはずなのに…-)

苦しさを吐き出すように、私は彼女を強く抱きしめ続けた。

すると…-。

〇〇「私は今のモルタさんの傍に、最後までずっと…-。 傍にいますから」

モルタ「ありがとう……ございます」

懺悔と、苦悩と、愛と……行き場のない感情がない交ぜになり、涙として一筋、こぼれ落ちていくのだった…-。

おわり。

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