嵐と共に荒れ始めて数時間…-。
夜が明ける頃には雨が上がり、分厚い雲の隙間から光が差し始めていた。
船の揺れもだいぶおさまり、私はほっと一息吐く。
(よかった……一時は船酔いでどうなることかと思ったけど……波がだいぶ穏やかになってきた)
甲板から空を見上げると、太陽のまぶしさに思わず目を細める。
ダグラス「嵐はおさまったな」
航海士「ウエストオーシャンホールにまもなく到着します!」
ダグラス「今海図を確認したんだが、俺達はまっすぐ海溝へと向かっていたみたいだ。運がよかった」
ダグラスさんが、安堵の表情を浮かべると、船員達からも歓声が上がる。
(ダグラスさん……嬉しそう)
目が合うと、ダグラスさんはにっこりと微笑んでくれた。
船員1「探索地点に到着です、あれ……?」
船員が遠くを眺め、顔をしかめる。
視線の先を見ると、見覚えのない黒船からSOS信号が上がっている。
船員1「何かあったんでしょうか……」
船員2「小型船で近づいて様子を見ます」
そう言って、何名かの船員達が黒船に近づいていった。
(SOSということは、何かトラブルが……?)
私は胸騒ぎを覚えながらその様子を見守る。
まもなくすると、船員達が戻ってきた。
船員1「……奴らは窃盗団でした。どうやら宝を奪うために俺達の船を追ってきたようです」
船員2「嵐の影響で船が動かなくなってしまったらしいのですが、助ける必要はないでしょう」
ダグラス「しかしこまま漂流させておけば命が危ないだろう……。 それに、他の船にぶつかって事故が起こる可能性もある」
ダグラスさんはしばらく黙り込んでから、決意の表情を浮かべる。
ダグラス「窃盗団を救助する」
船員1「船長!」
船員2「それは……おやめになった方がいいのでは……」
船員達は皆反対していたけれど、ダグラスさんの考えが変わることはなかった。
ダグラス「見捨てることはできない。ただし、船倉の中にしっかり捕らえておくんだ」
ダグラスさんの号令に、船員達は戸惑いの表情を浮かべながら救助へと向かった。
(ダグラスさん……宝を狙ってきた窃盗団の人達なのに)
…
……
その後……
私達は窃盗団を救助し、船員を船へと引き上げた。
ダグラス「お前達、怪我はないか」
窃盗団「なんで……助けた」
縛り上げられた窃盗団の人達が、ダグラスさんを睨みつける。
一瞬、場に沈黙が訪れた後……
ダグラス「それが俺の責務だからだ。 それに……お前達にも家族がいるだろう」
哀しみを堪えたダグラスさんの声色が、私の胸を切なくさせる。
―――――
ダグラス『俺がまだ幼い頃、天候不良で船が難破して、荒れ狂う海に皆投げ出されたんだ。 その時、親父は命をかけて、母と俺を守った……でも、行方はいまだにわかっていない。 きっと……この広い海のどこかに親父はいるんだ。 親父のことを思い出して時折寂しそうにしているお袋を見ると、さすがの俺も胸が苦しくなる』
―――――
(……どうしても見つけたい。ダグラスさんのお父様の形見を)
彼の力になりたいと強く思い、私は手のひらを握りしめた…-。
…
……
そしていよいよ、海溝の調査の準備が整った。
甲板には準備を終えた潜水士達が最終確認をしていた。
ダグラス「あまり無理をするな。海溝は潮の流れがはやいから気をつけろ」
潜水士「はい! では行ってまいります!」
潜水士達が海の中へと飛び込んでいく。
それから、祈るような気持ちで待つこと数時間…-。
〇〇「ダグラスさん……」
見ると、ダグラスさんの表情は硬く、落ち着かない様子だった。
〇〇「ダグラスさん、大丈夫です。きっと見つかります」
不安げな表情のダグラスさんを、精一杯励まし続けていると…-。
〇〇「……っ!?」
不意に、彼の腕に抱き寄せられた。
ダグラス「……」
私の腰元に回された大きな手が、小さく震えている。
(お願い……見つかって!)
しばらくすると、浮上してきた潜水士から船員が何かを受け取っているのが目に入る。
(……!)
船員1「船長! これ、見覚えがありませんか!?」
ダグラス「それは……!」
船員が差し出したものを見て、ダグラスさんの目の色が変わった…-。