船員1「船長! これ、見覚えありませんか!?」
ダグラス「それは……!」
潜水士が海の中から見つけてきたのは、ボロボロになった小さなチェストだった。
ダグラス「それは……俺の家の紋章!」
ダグラスさんは潜水士からチェストを受け取ると、刻まれた紋章に視線を落とす。
中を見ると、金の航海時計と分厚い革の手帳が出てきた。
〇〇「あ……手帳が……」
チェストの中に入っていたとはいえ、長い時間、海の中に浸っていたせいもあり手帳はだいぶもろくなっていた。
ダグラス「……」
丁寧にその手帳を開いた時、そこに何かを見つけたのか、ダグラスさんの表情がわずかに強張る。
ダグラス「……っ」
〇〇「ダグラスさん?」
ダグラス「……駄目だ。海水でにじんでよく見えない。 だが、この金時計は値打ちものだ!」
そう告げると、船員達からわっと歓声が上がる。
ダグラス「ハハッ、お手柄だな!!」
皆の中心で、ダグラスさんは嬉しそうに笑っているけれど……
(ダグラスさん……? 何があったの?)
どこか取り繕うような彼の様子に、私はわずかに不安を感じるのだった…-。
…
……
その夜、船上ではパーティが開かれていた。
(手帳を開いた時、一瞬ダグラスさんの様子がおかしかった気がしたけれど……)
けれどダグラスさんは、今は陽気に船員の皆さんとお酒を酌み交わしている。
(勘違いだったのかな)
しばらくすると、ダグラスさんはそっとその輪から離れ、どこかへと向かった。
(あれ……ダグラスさん、どこに行くんだろう?)
気がつくと、私は彼の後を追っていた…-。
…
……
ダグラスさんが向かった先は、船首の方だった。
昼間の嵐が嘘のように、空は静かに星々が輝いている。
〇〇「ダグラスさん」
ダグラス「〇〇……!」
一人で夜の海を眺めていたダグラスさんは、私の声を聞いて驚きの表情を浮かべた。
ダグラス「どうした?」
〇〇「……」
ダグラスさんの様子が気になったと言えず、黙り込んでしまう。
ダグラス「……」
夜の闇に、波の音が響いては吸い込まれ消えていく。
ダグラス「おいで」
優しく笑った後、ダグラスさんは私の手を引いて船室へと向かった…-。
中に入ってもなかなか言葉が出てこない私に、ダグラスさんは静かに語りかけた。
ダグラス「実は……」
背を向けていたダグラスさんが振り返ると、あの手帳を手にしていた。
差し出されたその中身を見ると、ボロボロになった家族写真があった。
若く凛々しい男性に、長い銀色の髪の美しい女性。
そしてその間にいるのは……
〇〇「これは……真ん中にいる赤ちゃんって、ダグラスさんですか?」
ダグラス「そう、よくわかったな」
〇〇「はい、赤ちゃんでも面影があります」
ボロボロでも、温かみを感じるその家族写真に見入っていると、ダグラスさんが照れくさそうに口を開いた。
ダグラス「その写真を見た時、不覚にも少しぐっときた。 でも……皆がいたから恥ずかしくて黙ってた」
(だからあの時、ちょっと様子がおかしかったんだ……)
昼間、手帳を開いた時のダグラスさんを思い出し、私は小さく頷いた。
そして、ダグラスさんは写真に視線を落としながら、小さな声でつぶやいた。
ダグラス「親父にとって、俺達は宝だったってことか……ちょっと、できすぎてるな」
〇〇「私は……素敵だと思います。 ダグラスさんのご家族、船員の皆さんも、絆で結ばれているんです……」
ダグラス「絆か……」
不意にダグラスさんの熱い視線が、私の注がれて…-。
ダグラス「じゃあ、新しい絆を築いてもいいかな……〇〇と……」
〇〇「……っ!?」
突然、私は彼にベッドに押し倒された。
〇〇「……ダグラスさん!?」
彼の吐息から、微かにお酒の匂いがした。
(ダグラスさん? 酔ってる……?)
ダグラス「言っておくが、酔ってなんかいない」
子どものように無邪気な笑顔で、彼は私に囁きかける。
(そんな顔で見つめられると……)
ダグラス「逃げないのか?」
心臓が、さらにうるさく騒ぎ出す。
ダグラスさんはポケットからナイフを取り出し、私のブラウスを裂いた。
〇〇「っ……」
ダグラス「怖いか? 〇〇……」
乱暴には感じたけれど、不思議と恐怖はなくて、吸い込まれるようにその瞳を見つめる。
ダグラス「……」
ダグラスさんの瞳が、何かを強く求めるように揺れ、細められる。
(絆……)
家族との、仲間との、そして…-。
〇〇「いいえ。怖くなんてないです」
視線を逸らさずに、彼にはっきりと告げる。
ダグラス「いい女だ……俺の目に狂いはなかった」
〇〇「え…-」
ダグラス「言っただろう? 幸運の女神になってくれって」
―――――
ダグラス『ああ、是非、俺の幸運の女神になってくれ』
―――――
(あの時の……)
ダグラス「俺と一緒に広い海を廻らないか?」
(この広い綺麗な海を……)
(ダグラスさんと……)
ダグラス「言い直す……海賊の頭領に攫われてくれないか? 俺は……〇〇が欲しい」
そう囁くと、ダグラスさんの顔が少しずつ近づいてきて…-。
裂かれたブラウスの合間に、彼の唇が落とされる。
〇〇「あ……」
甘い痺れを感じて、私は彼にぎゅっとすがりついてしまう。
ダグラス「目を……閉じろ」
瞳を閉じると、今度は全身にキスが降り注いでいく。
(熱い……)
波の音が、聞こえてくる。
その音を聞きながら、私はこれからダグラスさんと巡る海を思い描こうとするけれど……
今はただ、目の前の彼に溺れることしかできなかった…-。