月最終話 強さを秘める瞳

コライユ「薬を使う前の写真には、魚がたくさん泳いでいるのに。 薬を使った後の写真には、一匹も写ってないね。 ねぇ、どうして?」

男性「そ、それは……」

コライユ「何? 早く教えてよ」

男性をまるで挑発するような言動に、私は思わず息を呑んだ。

(だ、大丈夫かな)

張り詰めた空気に不安を感じて、私は静かにコライユくんの服の裾を掴む。

すると……コライユくんは、微かに顔をこちらに向け、そっと小さく頷いた。

『大丈夫、僕に任せて』

まるでそう言われているかのような仕草に、胸がきゅっと締めつけられる。

(コライユくん……)

男性「な、なんだよ!」

コライユ「……君が開発した薬は確かに珊瑚を綺麗に彩るけど。 生息する魚達をないがしろにしては、珊瑚の魅力は半減してしまうよ」

淡く長いまつ毛を微動だにさせず、まっすぐに男性の目を見つめるコライユくん……

凛とした横顔が、いつもより随分と大人びて見える。

コライユ「それがわからない人には、大切な珊瑚礁を任せることはできない。 だから今回の件はお断りさせてもらうね」

そう言って、最後ににっこりとコライユくんが微笑むと ・

コライユ「それと、君のことは父さんと……それから、アンキュラの王子に報告させてもらうからね」

男性「……なっ」

その言葉を聞いた途端、男性の顔が青ざめる。

コライユ「二度としないって誓うなら、今回は見逃してあげるけど」

男性「わ、わかった! 誓う!!」

コライユ「約束だよ?」

男性は慌てふためいた様子で、その場を立ち去っていった。

(よかった……)

〇〇「コライユくん……大丈夫?」

そう声をかけると、コライユくんは遠い目をしたまま口を開いた。

コライユ「多分だけど、あの人……。 薬を撒いて魚達を弱らせるのが目的だったと思う」

〇〇「え?」

コライユ「そして弱った魚を捕獲して、市場で売りさばくんだ」

〇〇「そんなことって……信じられない」

思わず言葉を失ってしまう。

コライユ「最近、少なくないんだ」

コライユくんの透き通るような翠の瞳にも、心なしか影が落ちている気がする。

コライユ「きっとその作業を堂々するために僕に話を持ちかけたんじゃないかな。 珊瑚を彩る薬なんて言ってね。 もしもここに薬を撒かれていたら、きっと大変なことになっていたと思う」

小さく噛んだ唇に、コライユくんの悔しさが微かににじむけれど…-。

コライユ「でも、ダグラスのお話を出したのは、効果的だったね」

〇〇「ダグラス……?」

コライユ「うん、海賊の国・アンキュラの王子だよ! 海の平和を守ってくれてるんだ!」

(海賊が……海の平和を)

首を傾げている私を見て、コライユくんがくすくすと笑う。

コライユ「いつか紹介する。〇〇さんに。 もちろん、珊瑚が綺麗だと人がたくさん集まるよ。国のためにはそれも悪くないかもしれない。 でも珊瑚は、生息する魚達を守ってこそ、珊瑚だから。 〇〇さんなら、わかってくれるでしょ?」

〇〇「うん……」

私が静かに頷いた時…-。

水面から地上の光がこぼれ落ち、コライユくんを美しく照らし出す。

その光の中、コライユくんは人差し指を唇にあて、いたずらっぽい笑みを浮かべた。

コライユ「見た目だけ良くたって、僕は駄目だと思うんだ。 僕は、珊瑚のありのままの魅力をもっと大切にしたい」

あどけない表情に秘めたコライユくんの強い気持ちを感じて、私もそっと口を開く。

〇〇「コライユくん……私にもできることってあるかな」

コライユ「ありがとう……でもこれは僕の国の問題だから、僕がどうにかしないと」

〇〇「そっか……そうだよね」

コライユ「でも僕、そう言ってくれてすごく嬉しい。 ……うん。 ……〇〇さんには、ただ、またここに来て欲しいな。 何年後も、何十年後だって……僕は必ずこの場所を守り通していてみせるから」

淡く柔らかなだけじゃない、力強さを秘めた瞳が私を見る。

〇〇「……うん」

その逞しさに、美しさに……私は心惹かれてしまうのだった…-。

おわり。

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