待ちに待った、婚宴の儀の当日…-。
クラウン「さて……どうしたものか」
演目がクライマックスへと差し掛かったその時、私は静かに台本に書かれていない台詞を口にした。
すると、椅子に腰かける〇〇が不思議そうに目を開き……
(驚かせてしまったね)
(だけど、今日はどうしてもここで貴女に想いを伝えたかったんだ)
(貴女の笑顔にどうしようもなく魅了されてしまった、あの時からずっと……)
脳裏に、初めてウェディングドレスをまとった時の彼女の姿が蘇る。
クラウン「道化は、人形に恋をした。 〇〇。私は、貴女に結婚を申し込みたい……!」
〇〇「ク、クラウンさん!?」
〇〇の手を引いて立ち上がらせた後、驚く彼女に構うことなく、跪いて白いブーケを手渡す。
クラウン「どうか、これからも私の傍に」
(健やかなるときも病める時も、どうかこの道化と共に……)
(ずっと傍で貴女の笑顔を見続けることを……許して欲しい)
〇〇「け、結婚って……!?」
私は〇〇の手の甲にキスを落とし、まっすぐに彼女を見上げた。
クラウン「美しいウェディングドレスをまとった貴女を見た時から……私はこの筋書きを考えていた。 道化として一番ふさわしい場で、貴女に想いを伝えようと。 哀れな道化に……返事を聞かせてくれるかい?」
予定にはなかった展開に、会場は大きな歓声に包まれている。
でも……
〇〇「……」
(〇〇……)
黙ったままこちらを見ている彼女に不安が押し寄せてくる。
(やはり、迷惑だったかな)
(彼女を困らせるつもりはなかったのに……)
ドクンドクンと、心臓が大きな音を立てていた。
(ああ、こんなに緊張するのは……初舞台の時以来)
(いや、それよりももっと……)
少しの沈黙の後、私は静かに口を開く。
クラウン「……困らせてしまったかな」
そう言葉にした後も、さらに不安は増していき……
私は、懇願するように〇〇を見上げた。
けれど、次の瞬間…-。
〇〇「あ……」
彼女は私が差し出したブーケを受け取り、ぎゅっと握りしめる。
〇〇「とっても……嬉しいです」
(本当に……?)
絞り出すようなその声に、喜びが溢れてくる。
クラウン「〇〇……!」
私は思わず立ち上がり、彼女を抱きしめた。
クラウン「よかった。とても緊張していたんだよ」
ほっと胸を撫で下ろす私に、会場中から惜しみない拍手が送られる。
〇〇「クラウンさんといると、いつも驚いてばかりです」
(ああ、そうだね。だけど……)
クラウン「すまない。性分なんだ」
(だから……どうか、許して欲しい)
そう、心の中でつぶやくと……
〇〇「でも、すごく楽しいです」
彼女の幸せそうな声に、鼓動が大きく跳ねる。
(大切な貴女を楽しませたくて踊り続ける、愚かな道化……)
けれど今までの旅路は……今この時の彼女の笑顔に通じていたと、そう思えた。
(こんな私を、貴女は受け入れてくれた)
想いが伝わった喜びに、自然と笑みがこぼれてしまう。
クラウン「これからもずっと、〇〇の傍にいるよ」
私の言葉に、腕の中の彼女が小さく頷く。
そのいじらしい姿に、私は…-。
クラウン「これから……」
〇〇「え?」
耳元に顔を寄せて小さな声で囁くと、〇〇はわずかに体を離して私を見上げる。
そんな彼女を抱きしめる腕に、強く力を込め……
クラウン「これから何があろうとも、私は貴女を想い続ける。 健やかなる時も、病める時も……必ず貴女だけを。 そう、誓うよ」
〇〇「クラウンさん……」
嬉しそうに私の名前を呼ぶ彼女が、背中にそっと腕を回してくれる。
そして……
〇〇「はい。私も誓います」
小さくも、決意に満ちた声でそう答えてくれたのだった…-。
おわり。