中庭で水鏡のことを話していると、フリューさんは突然口を閉ざしてしまう。
続きを聞きたかったけれど、時間はもう残されていなかった。
(婚宴の儀が始まった……)
大きな聖堂の中では、個々の宣誓がすべて聞き取れるわけではないということを知り、フリューさんの順番が近付くにつれて、心配が募っていく。
(フリューさん……頑張って)
心の中で応援をしていると、フリューさんの宣誓が始まった。
しかし、私の心配をよそに、フリューさんは私の心配をよそに、フリューさんは堂々と声を上げて、皆の注目を集めている。
(すごい……フリューさん)
ドキドキ騒ぐ胸を押さえながらフリューさんを見つめていた。その時…―。
神官の脇にある水鏡が、キラリと光った気がした。
(え……今のは?)
周りを見渡すと、その光に気付いた人は誰もいないようで、皆は別の方向を見ていた。
(光ってた……よね)
宣誓が終わると、私はすぐにフリューさんの元へ駆け寄り、声をかける。
フリュー「○○さん」
○○「フリューさん! あの……水鏡、光っていましたよね?」
フリュー「きみも、気づいていたんだね……」
○○「あれは一体……」
その時のことを思い出すと、なぜだか胸がドキドキする。
すると突然、フリューさんに体を引き寄せられ、耳元に温かな吐息が触れる。
○○「フリュー……さん……」
フリューさんを近くに感じると、心臓の鼓動が騒ぎ立てて、体を動かすことができない。
しばらくそのままでいると、耳元で囁くような声が聞こえてくる。
フリュー「あれは……近くに僕の運命の人がいるという知らせ……なんだ」
○○「え……」
(フリューさんに、運命の人がいる……?)
頭の中に何度もそのフレーズが浮かび、私の心はひどく動揺する。
(どうして……胸がこんなにざわめいて……)
私の心が激しく揺さぶられていることなど知らないフリューさんは、さらに言葉を続ける。
フリュー「きみと……水鏡の前に……立つのは」
そう言いかけて、フリューさんは再び口を閉ざした。
フリュー「……僕は、怖いんだ」
○○「怖い?」
フリュー「水鏡に……誰が映るのか……」
切ない声が胸に響く。
(フリューさんの、運命の相手……)
胸がひどく締めつけられて、息が苦しくなる。
そんな自分を見られたくなくて、私は顔をうつむかせた。
フリュー「○○さん……?」
○○「フリューさん……見つかるといいですね……運命の相手……」
フリュー「え……?」
○○「……」
込み上げる切ない気持ちをどうすることもできなくて、私はうつむいたまま彼に背を向けた。
その時…―。
フリューさんに腕を掴まれて、私は彼を振り返った。
○○「……っ」
(強い力……)
その力強さに驚いて、私は瞳を瞬かせた。
フリュー「僕は……怖いんだ。運命の相手が、きみじゃなかったらって思うと…―」
(え……)
フリュー
「でも……。 ……運命だろうと……ろうと……ない」
けれどフリューさんの声は、私まで届かない。
○○「フリューさん……? 聞こえないです」
フリュー「……」
すると、フリューさんが私の耳元に顔を寄せて……
フリュー「僕は、きみが好きです」
○○「!!」
『好き』……その言葉が、私の心にゆっくりと染み渡っていく。
(……フリューさん)
胸が熱くなって、何も言葉が出てこない。
フリュー「○○さん……きみが、大好きです」
しっかりとその言葉と気持ちが伝わって、私もようやく口を開く。
○○「私も……」
フリュー「聞こえないよ?」
耳に囁かれる、フリューさんの心地よい声……
○○「私も、大好きです」
大きな声で、彼にそう伝える。
幸せがこぼれて、さっきまでの暗い気持ちをすべて洗い流してくれる。
(あなたが……大好き)
フリューさんの優しい温もりを感じながら、心の中で何度もそう伝えたのだった…―。
おわり。