小鳥たちのさえずりが、心地よく耳に届く中…―。
フリュー「水鏡の前に立った時に、二人の姿が映れば……お互いが運命の相手だって言われてる」
○○「それは……」
水鏡の話をすると、○○さんが驚きに目を輝かせた。
(この広い世界で、運命の人と出会えるなんて……)
フリュー「きっとそれは……奇跡みたいな確率だよね」
か細い僕の声に、○○さんは優しく耳を傾けてくれる。
○○「はい……もしもその相手が見つかれば、奇跡に近いかもしれませんね」
フリュー「でも……僕は……」
○○「え……?」
(彼女に伝えたい……僕は、奇跡を信じてるって)
けれど勇気が出せずに、一番大切な言葉を呑みこんだ…―。
…
……
厳かな空気の中、アフロスの聖堂で婚宴の儀が進んでいた。
フリュー「……」
(いよいよ、次は僕が宣誓する番だ……)
緊張で微かに震え始めた指先を、ぎゅっと強く握りこむ。
(大丈夫……○○さんが見守っていてくれる)
そっと目を閉じて、何度か深く息を吐きだした。
(僕の声が、アフロスの神へ……そして、彼女の元まで届きますように)
切なる祈りを込めて、祭壇の前に立つ。
フリュー「アフロスの神よ、我が祖国・ヴォックスに祝福を…―」
不思議と肩の力が抜け、堂々と宣誓を果たすことができた。
宣誓を終え、席に戻ろうとした時……
(え……?)
ほんの一瞬、神官の脇にある水鏡が、まばゆい光を放つのが見えた。
(もしかして、今のは……)
その光は、祭壇に向かって立っていた僕だけが気づいたようだった。
…
……
儀式の後、○○さんが僕の傍へ駆け寄ってきた。
○○
「フリューさん! あの……水鏡、光っていましたよね?」
フリュー「きみも、気づいていたんだね……」
○○「あれはいったい……」
つぶやく○○さんの頬が、心なしか薄紅に染まっている。
(あの時、僕は本気で願っていたんだ……)
(僕の運命の相手は、きみじゃなきゃ嫌だって……)
気持ちが溢れそうになり、気づけば○○さんの腕を引いていた。
○○「っ……!」
勢いのままに、彼女の背中をきつく抱きしめる。
○○「フリュー……さん……」
(○○さん……)
あんなにも憧れ続けた、彼女の甘い髪の香りが鼻先をかすめる…―。
心臓が痛いほど暴れ、彼女への想いが抑えきれなくなりそうだった。
フリュー「あれは……近くに僕の運命の人がいるという知らせ……なんだ」
僕の話を聞き、○○さんがわずかに身を固くする。
フリュー「きみと……水鏡の前に……立つのは……。 ……僕は、怖いんだ」
彼女の耳元に顔を寄せ、正直な気持ちを打ち明ける。
フリュー「水鏡に誰が映るのか……」
(もし、それが○○さんじゃなかったら)
(きっと、僕はひどく傷ついて……それでも彼女を忘れるなんてできない)
フリュー「……」
そっと腕を解き、○○さんから身を離す。
すると……重い沈黙の後、彼女はぎこちない笑顔で告げた。
○○「フリューさん……見つかるといいですね……運命の相手……」
フリュー「え……?」
(どうして、きみがそんなこと……)
心臓が絞られるように痛み、気づけばもう一度彼女の腕を掴んでいた。
○○「……っ」
フリュー「僕は……怖いんだ。運命の相手が、きみじゃなかったらって思うと…―」
不安にさいなまれ、小さくなっていく僕の声に、彼女がじっと耳を傾ける。
○○「フリューさん……? 聞こえないです」
(違う、そうじゃない……)
たとえ水鏡が、二人の姿を映さなかったとしても…―。
(今、彼女に一番届けたい言葉は……)
僕は○○さんの耳元に唇を寄せ、愛しい彼女だけに囁く。
フリュー「僕は、きみが好きです」
○○「!!」
フリュー「○○さん……きみが、大好きです」
ようやく口にできた言葉が、彼女の心へ届いた時……
煌びやかなアフロスの聖堂から、運命の鐘の音が聞こえた気がした…―。
おわり。