アルストリアの兵士「アヴィ王子! 裏が取れました!!」
大きな声と共に、兵士が駆け込んできた。
その後ろには、アルストリア・アフロスの両兵士と、アフロスの国王の姿が見える。
アヴィ「そうか!」
アヴィが剣を鞘に戻すと同時に、兵士達が、あっという間に神官とオルガさんを取り囲む。
一歩前に踏み出した兵士の持つ書状には…-。
〇〇「共謀……偽証罪!?」
アフロス王「その者オルガ、及び神官一名、神の名を語り、神聖なる儀を穢すことはまこと許されざる罪。 神の聖霊の御名において、即刻ひっ捕らえよ!」
両兵士「はっ!!」
オルガ「なっ……」
驚愕するオルガさんを一瞥し、アヴィが剣を鞘におさめた。
アヴィ「姑息な真似しやがって……俺はこういうのが、一番許せねえんだよ」
…
……
こうして、オルガさんと一名の神官が捕えられ、その場は収まった。
慌ただしく兵士達がアフロスの城へと向かっていき、私とアヴィは、祭壇にそのまま残された。
〇〇「アヴィ……」
戸惑いがちに名を呼び近づくと、彼は私を振り返った。
その顔に、悔しげな笑みが浮かぶ。
アヴィ「悪いな。ちょっと時間かかっちまって……」
〇〇「ううん……」
返された言葉に大きく首を振る。
それまでずっと耐えていた反動か、涙が再びあふれそうになる。
アヴィ「……そんな顔すんなよ、ちゃんと約束しただろ?」
〇〇「約束……」
―――――
アヴィ『――約束する、俺を信じろ、〇〇』
―――――
(あの時の……)
暗い庭先で、アヴィが見せた臣下の礼を思い出す。
アヴィ「これ……」
祭壇近くに投げ捨てられたブーケを目に入れ、アヴィがおもむろに胸元から一本の花を取り出した。
アヴィ「祭壇の裏に咲いてたんだ……綺麗だろ」
〇〇「この花は……」
差し出された淡い青紫色の花を受け取る。
その可憐な花は、どこかで見た記憶がある。
アヴィ「……似てるなって思ったんだ、俺の国で咲いていた花に」
〇〇「アヴィ……」
大切なもののように優しく花を握りしめ、アヴィに寄り添う。
そっと、大きな手が私を抱き寄せてくれる。
アヴィ「だから、そんな顔すんな。お前が泣くと困るんだよ……」
〇〇「……うん」
目頭が熱くなり、胸に柔らかなものがあふれ出す。
私の肩を抱くアヴィの手は力強くて、どこまでも優しかった…-。
…
……
彼の腕に抱かれたまま…-。
気づくと、いつの間にか祭壇のステンドグラスから夕陽が差し込んでいた。
アヴィ「……落ち着いたか?」
〇〇「うん。本当にありがとう」
アヴィ「だいたい結婚とか、お前が軽々しく運命の人探しなんか受け入れるから……」
〇〇「私だって、もう何がなんだか……」
不満を口に乗せるアヴィに、しどろもどろに答える。
すると一瞬、間があって、彼は静かにつぶやいた。
アヴィ「お前が、あいつといると考えただけで、ずっと気が狂いそうだった」
〇〇「アヴィ?」
そっと、彼の手が私の頬に添えられる。
アヴィの青紫色の瞳が、私を見て静かに揺れていた。
〇〇「……」
胸を叩く鼓動が、速さを増していく……
そして…―。
【スチル】
〇〇「あ……」
彼の少し厚い唇が、私の唇を塞いでいた。
キスは熱く、情熱的に……
もう誰にも渡すまいと言うように、独占的に……
〇〇「ん……っ」
口づけは永遠のように長いときを渡り、やがて静かに離れていった。
アヴィ「覚えとけ。お前のことを一生守るのは、俺だ。 他の誰でもない」
魂が揺れるような強さで告げられた言葉が胸に染み渡る。
(あ……)
アヴィの言葉に呼応するかのように、祭壇の水鏡から神秘的な光がこぼれ出す。
〇〇「アヴィ……」
その輝きの中、アヴィは私の前で膝を折った。
そして剥き身の剣の切っ先を自身へ向け、あの夜、私に見せてくれた臣下の礼を取った。
アヴィ「この魂にかけて誓う、俺はお前をこの先も守り通す。 ……お前の返事は?」
〇〇「はい……あなたの忠義を受け取ります」
彼より受け取った剣の柄にキスを落とし、再び彼の手に返す。
するとアヴィは満足そうに微笑み、もう一度、私の唇にキスを落とした。
それはしめやかで厳かな約束のキス。
神をも恐れぬ力強き彼との、永遠を誓うキスだった…-。
おわり。