にじり寄るオルガさんの姿に恐怖を感じ、目を閉じたその時…-。
扉が開け放たれ、かすかな怒りを揺らめかせたアヴィが祭壇へと入ってきた。
アヴィ「……そいつを放せ」
〇〇「……アヴィ!」
オルガ「貴殿、どういうつもりだ? これは神託による神聖な儀式。関係の無い者は出て行ってもらおう!」
オルガさんの言葉にも怯まず、アヴィは静かに私の前まで歩みを進めると、穏やかな声で言った。
アヴィ「〇〇、迎えに来た。帰るぞ」
〇〇「……」
真っ直ぐな視線と共に、手が私へと伸ばされる。
私も、手を伸ばそうとするけれど……
アフロスの神官「アルストリアの王子よ。女神の神託に異を唱えてはなりません。 軽はずみな行動を取っては、災いがもたらされるかもしれませんよ」
(もし、この手を取ったら……)
わずかな迷いが胸中に起こり、彼の伸ばそうとしていた指先が止まる。
その一瞬の隙をついて、オルガさんが私とアヴィの間へ入った。
オルガ「……〇〇は僕の妻となる女性だ。 勝手に連れて行くことは許されない。 おい、この邪魔者をさっさと摘まみ出せ!」
兵士「はっ!」
指示が飛ぶや、横に控えていた兵士達がアヴィを取り囲む。
数十本もの槍が一点、アヴィに向けられる。
けれど…-。
アヴィ「……っ!」
耳障りな金属音が響き、槍の束は一気にその場から弾け飛んだ。
見ればその中央には、いつの間に抜いたのか、剣を構えるアヴィの姿がある。
〇〇「アヴィ!?」
オルガ「何をしている! さっさとしろ!」
叱咤の声が飛ぶが、アヴィの神速の太刀筋の前に、兵士達は相手にすらならない。
アヴィ「どうした、もう終わりか? 茶番だな……お前らみたいなのに、そいつは任せられねえよ!」
アヴィが強く言い放つ。
その言葉に呼応するように、祭壇に設えられた水鏡が不穏に揺れ出した。
アフロスの神官「見ろ! 神が……お怒りだ!」
水鏡を見た神官たちに戦慄が走る。
けれどその動揺をものともしないで、アヴィは言い放った。
アヴィ「知るかよ。神だろうがなんだろうが……そいつを泣かせる奴は許さねえ。 かかってこいっ!! 全員まとめて相手してやる!」
〇〇「……アヴィ!」
再び剣を構え、凛と告げられた言葉に、胸が高ぶる。
また涙が目尻からあふれそうになる……
その衝動をぐっと堪え、顔を上げた時だった。
アルストリアの兵士「アヴィ王子! 裏がとれました!!」
〇〇「!?」
振り返ると扉の前には、列を成したアルストリア・アフロスの両兵士に囲まれ、アフロスの国王が立っていた…-。