月7話 大切より大切な存在

風に揺られ、アヴィの赤い髪が視界の端でふわりと舞う。

アヴィ「……」

もう、どれくらいこうしていたのか……

わずかな時間がひどく長く感じられた。

(アヴィ……)

アヴィに触れたくて、そっと髪へ手を伸ばす。

けれど触れる前に、彼の手によって引き止められてしまった。

アヴィ「そんな、心配そうな顔するなって」

ゆっくりと顔を上げると、アヴィは切なげに目を細める。

その表情が、私の胸をどうしようもなく苦しくさせた。

アヴィ「お前にそんな顔させたいわけじゃねえんだ」

(私だって、アヴィにそんな顔をしてほしくない)

(もう……傷ついてほしくない)

(だって、アヴィは私にとって……)

『大切』という言葉だけでは足りない何かが、胸の内に引っかかる。

(私にとってアヴィは、一緒に旅をしてきた大切な存在で…-)

アヴィ「ずっとお前のこと、傍で見てた。だからわかる」

〇〇「え……?」

アヴィ「お前は、この世界の皆のことが大好きで……皆に笑っててほしいって思ってる。 ……自分より他人を優先させちまう。 トロイメアの姫様はそんな奴だって、俺が一番よくわかってんだよ」

まるで自分自身に言い聞かせるように、アヴィは苦しそうに言葉を紡ぐ。

〇〇「アヴィ……」

掴まれた手の力が緩められ、今にも解けてしまいそうで……

今度は私が、とっさにアヴィの手を掴まえていた。

アヴィ「……」

彼の指先が、私の手をなぞるように触れる。

アヴィ「けど、やっぱり俺はお前にとっての特別でありたい」

そう言って、アヴィは私の手の甲に恭しくキスを落とした。

アヴィ「こうして格好つけて、今さら王子らしく振る舞ったって……ただ、それだけなんだ」

真摯に告げられる言葉が、私の心を熱く震わせる。

(私がこの世界でやってこられたのは……皆がいてくれたから)

(私は、この世界の皆のことが大好き。けど……)

繋がった手が決して解けないように、そっと両手で彼の手を握りしめる。

(この手を離したくない……この想いは…-)

顔を上げると……青紫色の瞳が空の色を映し、情熱的に揺れて見えた。

(この瞳がずっと、私を見つめていてくれた)

心の中のこの引っかかりがなんなのか、答えが見つかったような気がした。

それは、言葉にすればごく単純なことで…-。

(私は、アヴィのことが大好き。だから…-)

〇〇「アヴィ。私…-」

口にしようとしたその時、視界の片隅が光り輝いた気がした。

けれど、それは気のせいではなくて……

〇〇「星……?」

アヴィ「〇〇……見ろよ」

瞬く星が、柔らかな弧を描きながら夜空を滑り落ちていく。

まるで、空が優しい涙を流しているかのように、星はゆっくりとこぼれ続けた…-。

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