風に揺られ、アヴィの赤い髪が視界の端でふわりと舞う。
アヴィ「……」
もう、どれくらいこうしていたのか……
わずかな時間がひどく長く感じられた。
(アヴィ……)
アヴィに触れたくて、そっと髪へ手を伸ばす。
けれど触れる前に、彼の手によって引き止められてしまった。
アヴィ「そんな、心配そうな顔するなって」
ゆっくりと顔を上げると、アヴィは切なげに目を細める。
その表情が、私の胸をどうしようもなく苦しくさせた。
アヴィ「お前にそんな顔させたいわけじゃねえんだ」
(私だって、アヴィにそんな顔をしてほしくない)
(もう……傷ついてほしくない)
(だって、アヴィは私にとって……)
『大切』という言葉だけでは足りない何かが、胸の内に引っかかる。
(私にとってアヴィは、一緒に旅をしてきた大切な存在で…-)
アヴィ「ずっとお前のこと、傍で見てた。だからわかる」
〇〇「え……?」
アヴィ「お前は、この世界の皆のことが大好きで……皆に笑っててほしいって思ってる。 ……自分より他人を優先させちまう。 トロイメアの姫様はそんな奴だって、俺が一番よくわかってんだよ」
まるで自分自身に言い聞かせるように、アヴィは苦しそうに言葉を紡ぐ。
〇〇「アヴィ……」
掴まれた手の力が緩められ、今にも解けてしまいそうで……
今度は私が、とっさにアヴィの手を掴まえていた。
アヴィ「……」
彼の指先が、私の手をなぞるように触れる。
アヴィ「けど、やっぱり俺はお前にとっての特別でありたい」
そう言って、アヴィは私の手の甲に恭しくキスを落とした。
アヴィ「こうして格好つけて、今さら王子らしく振る舞ったって……ただ、それだけなんだ」
真摯に告げられる言葉が、私の心を熱く震わせる。
(私がこの世界でやってこられたのは……皆がいてくれたから)
(私は、この世界の皆のことが大好き。けど……)
繋がった手が決して解けないように、そっと両手で彼の手を握りしめる。
(この手を離したくない……この想いは…-)
顔を上げると……青紫色の瞳が空の色を映し、情熱的に揺れて見えた。
(この瞳がずっと、私を見つめていてくれた)
心の中のこの引っかかりがなんなのか、答えが見つかったような気がした。
それは、言葉にすればごく単純なことで…-。
(私は、アヴィのことが大好き。だから…-)
〇〇「アヴィ。私…-」
口にしようとしたその時、視界の片隅が光り輝いた気がした。
けれど、それは気のせいではなくて……
〇〇「星……?」
アヴィ「〇〇……見ろよ」
瞬く星が、柔らかな弧を描きながら夜空を滑り落ちていく。
まるで、空が優しい涙を流しているかのように、星はゆっくりとこぼれ続けた…-。