月SS 誰よりも大切な人

夜空を流れる流星に、〇〇が手を伸ばす。

そのまま、こいつがどこかに飛んで行ってしまいそうに思えて……

(……っ)

つい〇〇の手を掴まえていた。

〇〇「アヴィ……」

アヴィ「……」

(俺は……どうしたんだろうな)

誤魔化すみたいに〇〇に笑いかけて、俺は夜空を眺めた。

アヴィ「すげえな」

〇〇「うん……」

(きっと、なかったことにしたいんだ)

(焦って、〇〇を困らせたことを……)

見下ろせば、さっきまでいた城がよく見えた。

(あの時だってそうだ)

―――――

アヴィ『姫のお相手は本日、私が務めることになっております』

―――――

(〇〇は俺のだって、言ってやりたくて)

(集まる奴らの前で、見せつけてやりたいって……)

子どもじみた、独りよがりな思いに呆れてしまう。

アヴィ「ごめんな。困らせちまって」

〇〇「え?」

アヴィ「お前はトロイメアの姫様なのに」

(わかってたはずじゃねえか)

(〇〇はこの世界のために一生懸命なんだって)

(そういう〇〇だから、俺は好きになったんだ)

騎士として律することができない自分に落胆する。

アヴィ「けど、これからも俺はお前のこと、傍で守ってやりたいんだ。 特別とかじゃなくても……さ」

(自分で言って、自分で傷ついてたら世話ねえな……)

(けど、守りたいのは本当なんだ)

少し困ったみたいな顔をして、〇〇が俺を見つめる。

(また、困らせてんのかな……俺は)

どうしていいかわからなくて、肩をすくめる。

〇〇「……アヴィの笑顔は、私にとって特別だよ」

アヴィ「〇〇……」

〇〇「アヴィの想いと私の想いは、同じなんだよ……」

(同じ、気持ち……それは…-)

〇〇の手が俺の手を包んで、正解を教えてくれる。

〇〇「アヴィが笑うと、いつも力が湧いてくる。 大好きだよ。だから……傍にいて。 アヴィがいないと、私…-」

一生懸命に伝えようとしている彼女が、たまらなく愛おしい。

アヴィ「〇〇」

想いのままに抱き寄せると、〇〇の香りが鼻をくすぐった。

アヴィ「……ありがとな。充分だよ」

応えてくれる彼女に、それ以上の言葉が思いつかなくて……

抱きしめると、〇〇が俺の胸に顔を押しあてた。

アヴィ「そんなしがみつかなくたって、離れてなんかいかねえよ」

〇〇「うん……」

(離すわけがない。俺はもう、お前を…-)

想いが通じ合えば、抑えていたものをもうこらえきれなくなる。

アヴィ「……なあ。 キス……していいか?」

〇〇「っ……」

頬に触れる指先に、彼女の熱が伝わる。

(こんなこと聞くなんて、少し意地悪だったかもな)

(でも、こうでもしなけりゃ、きっと俺は思うままに〇〇を……)

確認を取ったのは、たぶん自分を戒めるためみたいなもので……

少し戸惑うように瞳を彷徨わせるけれど、彼女はやがて小さく頷いた。

(気持ちが、溢れていく……)

許しを得て、俺は〇〇にキスをした。

(まるで、誓いだ……)

アヴィ「お前が好きだ。 ずっと傍にいる。お前の傍に……」

〇〇「私も……」

(ああ、その言葉ごと俺は手に入れたい)

囁きごとに奪うように、再び唇を重ねていた。

離れる度に、俺は〇〇を求め続ける。

〇〇「ん……」

漏れる甘い声が俺の耳をくすぐる。

重ねられた彼女の手が、また俺を止まらなくさせた。

(好きだ……)

それ以上に、言葉が見つからない。

アヴィ「〇〇……」

彼女の視線が名残惜しそうなのは、きっと気のせいじゃない。

その瞳に映してほしくて、俺は〇〇の頬に触れた。

アヴィ「お前は時々、無理に笑おうとしたりするけどさ。俺の前では泣いたっていい。 俺の笑顔がお前の力になるなら、いつだって笑っててやるから」

(お前が願うなら、俺はなんだってしてやりたい)

(世界のためにお前が尽くすなら……俺はそんなお前をずっと支えてやる)

〇〇「アヴィ……うん」

アヴィ「どんな時も……お前が必要とするのが、俺であってほしい」

〇〇「ありがとう。すごく嬉しい」

花が咲いたように彼女の顔がほころんでいく。

〇〇「ずっと一緒にいて。アヴィがいてくれるなら、どこまでだって歩いて行ける気がする」

アヴィ「……ああ」

(俺も同じだ。〇〇がいれば…-)

アヴィ「どこへだって、俺が連れて行ってやる。お前が望む場所へ…-」

想いを分かち合う俺達を見守るように、また一つ大きな星が流れていった…-。

……

流れ落ちる星の中、飛空船は高度を落としていく…-。

アヴィ「もうすぐ着くぞ」

〇〇「アヴィ、ここは?」

アヴィ「行ってからのお楽しみだ」

彼女の手を引いて、俺は甲板を歩き出す。

(この先に何が待っているのか……きっと〇〇となら、なんだって楽しんだろう)

アヴィ「〇〇」

呼びかければ、彼女は優しく微笑んだ。

アヴィ「……参りましょう、俺の大切な姫」

〇〇の前に膝をついて、そっと手の甲にキスを落とす。

俺だけの大切な人だと、そこに見えない印を残すように……

見上げると、彼女の澄んだ瞳に俺だけが映っていたのだった…-。

おわり。

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