耳をつんざく咆哮と兵士の怒号に、逃げ惑う人々の悲鳴が入り混じる中…ー。
(嘘……)
外壁を破り、巨大なモンスターが街に入り込もうとしていた。
○○「あ…ー」
足がすくみ、身動きができないでいると、モンスターがこちらに獰猛な視線を向けた。
(こっちにくる!?)
すぐさま、いかにも化け物らしい巨躯を持ったモンスターがこちらに猛進してくる。
○○「来ないで……っ!」
その時、外壁から聞き覚えのある声が響いた。
アマノ「逃げてください!!○○!!」
スローモーションのように流れる時間の中で、声がした方を見る。
(アマノ……さん)
アマノさんは今にもモンスターに襲われそうになっていた私を見て、その顔を大きく引き歪めていた。
けれど彼と私との間には、どうにもぬぐえない距離がある。
(もう駄目……!)
迫りくるモンスターが巨大な鈎爪を大きく振り上げる。
もうどうすることもできないと、目を閉じかけた時…ー。
アマノ「神よ!今こそ僕に大切な人を救う力を!!」
○○「!?」
一条の閃光が、アマノさんの手から放たれる。
瞬間、目の前に迫っていたモンスターが金切り声を上げた。
(これは……!?)
恐怖で閉じかけた目を見開くと、モンスターの首を黒い矢が貫いている。
しかし巨躯を誇るモンスターは一瞬怯んだものの、すぐに体制を立て直す。
○○「……っ!」
その時、城壁の外から大きな歓声が聞こえた。
兵士「援軍だ!アヴァロンの援軍が現れたぞ!?」
声のした方を見れば、先ほど崩れ落ちた壁の隙間から見た事のある旗印が見える。
たちまち兵士達から力強い声が上がり、その場の情勢は一変した。
○○「……!」
外壁近くで上がった絶大な叫声に、再び襲いかかろうとしていたモンスターも一瞬、気を取られる。
アマノ「○○!!」
再び私を呼ぶ声が聞こえたかと思うと、モンスターが数本の矢に穿たれた。
○○「!!」
目の前に現れた姿に、思わず目頭が熱くなる。
アマノ「大丈夫でしたか!?」
弓をつがえたアマノさんが、私をモンスターから守るようにして目の前に立っていた。
○○「アマノさん!?どうしてここに……!?」
アマノ「君が危険にさらされるのを見て、弓兵とはいえただ矢を射るわけにはいかないでしょう!? 駆けながら急所を狙ってたんです!」
○○「そんな……」
大きな背中に安堵が込み上げ、今度こそ泣いてしまいそうになる。
アマノ「僕の後ろを決して離れないでください!」
言うなり、彼は新たな矢をモンスターに向けて放つ。
アマノ「……っ」
息をもつかせない連続射撃がモンスターを襲い、何本もの矢を射かけられた巨体はようやく倒れこんだ。
しかし外壁からは、大きさこそは小さくはあるものの新たなモンスターが浸入してくる。
アマノ「絶対に君は僕が守ります。この神弓とアカグラの王子の名にかけて!」
○○「アマノさん……」
彼の手から神速の弓が放たれる度に、次々とモンスターが倒れていく。
初めて見たその凛々しい姿に、目が奪われる。
(すごい……)
(穏やかで優しいだけじゃない。こんなに強くて……)
その勇姿を見つめていると、彼がふと私の方を振り向いた。
金色の瞳が、少し自嘲気味に細められて…ー。
アマノ「なぜ、僕はこんな簡単なことに気付けなかったんでしょう。 大切だと思える人達を守るためなら、悩みや葛藤など抱く余地などなかったのに……!」
○○「アマノさん……」
アマノ「待っててください。残りもすぐに片づけます!それまで絶対に僕の傍を離れないでください」
○○「はい!」
芯の通ったその声が、私の恐怖をすべて払ってくれた…ー。
…
……
援軍の助けもあり、ほどなくして事態は収拾した。
被害は出たものの、郊外の村を襲ったモンスターもすべて倒されたということだった…ー。
…
……
アマノ「怪我はありませんか?」
○○「はい。アマノさんのおかげで、少し擦りむいたくらいですみました」
アマノさんがほっと、安堵したように息を吐く。
けれど街の様子を見て、彼は端正な顔を苦しげに歪めた。
アマノ「僕がもっと早く意思を固めていればここまでの被害は……」
○○「そんな……自分を責めないでください」
優しい彼の心を思うと、胸がしめつけられるけれど…ー。
アマノ「……すみません、でも僕は大丈夫ですよ。 この先、するべきことが多くありますから」
清々とした、清潭な顔つきでアマノさんが私を見つめる。
ドキリと胸を鳴らしながら、私はあの時の言葉を思い出していた。
ーーーーー
アマノ「これが終わったら、僕と一緒にまた藤の花を…ー」
ーーーーー
○○「そうですね……しばらくゆっくりできそうにはありませんね」
少しだけ寂しい気持ちになりながら、彼に笑いかけると……
アマノ「……」
不意に、彼の唇が私の唇に重ねられた。
○○「!」
戸惑う暇もなく、彼の逞しい腕に引かれ、そのまま強く抱きしめられて……
アマノ「藤の花の持つ意味を知っていますか?」
○○「ア、アマノさん……?」
彼の瞳に、新たな決意が宿る。
アマノ「『決して離れない』……です」
そしてもう一度口づけが落とされる。
それはまるで誓うような強さを持った……
深い深い口づけだった…ー。
おわり。