鮮やかに咲き誇る紫陽花を背に、僕達は顔を寄せ合って写真を撮った…―。
(すごい近くに、○○の顔が……)
頬が熱くなっていくのがわかる。
僕は、慌てて○○との距離を取った。
○○が、心配そうに僕の顔を覗き込んだ。
(こんなことで赤くなるなんて……)
(人に近づいて、具合が悪くなることはあるけど……)
(もっと近づきたいと思うのは、○○だけだ)
フォーマ「……一緒に撮れて……よかった」
僕の言葉に、○○は柔らかい笑顔で返してくれる。
並んで歩く二人の距離を、僕はさり気なく縮めていた…―。
庭園を出て、少し歩いていると…―。
(雨だ……)
薄い灰色の雲に覆われていた空が急に暗さを増していき、たちまち空に厚く雲がかかり、大粒の雨が降りだしてしまった…―。
フォーマ「○○、濡れてしまうよ。一緒に入ろう」
○○「うん、ありがとう」
(傘を持ってきてよかった……)
(○○が、雨に濡れずに済む)
○○「フォーマ、もっと傘に入って」
○○は、僕の肩が濡れていることに気づき、傘を傾けようとする。
フォーマ「僕は大丈夫だよ」
雨粒がビニール傘を激しく打ちつけ始める。
雨足はどんどん強くなり、傘を伝う水滴が、肩を濡らした…―。
○○「くしゅっ……」
○○は、小さく体を震わせてくしゃみをした。
フォーマ「○○、大丈夫か?」
(寒いのに、我慢していたんだ)
(それなのに、○○は僕のことを心配してくれて……)
彼女の優しさをひしひしと感じながら、雨宿りができる場所を探す。
やがて、少し離れたところに、屋根のついたバス停を見つけた。
フォーマ「あそこで少し、雨をしのごう」
僕と○○は、急いでその場所へ駆けて行く。
…
……
バス停には二人きり…―。
フォーマ「……」
(静かだ……)
静寂が僕らを包み込んでいた。
(今日は、楽しかった……)
(また誘ったら、○○はきてくれるかな?)
(……そもそも、○○は今日楽しんでくれたのだろうか?)
雨音と共に、不安が押し寄せてくる…―。
(勇気を出して……聞いてみよう)
フォーマ「……久しぶりに日常を忘れられたよ。ありがとう、○○」
焦って早口になりそうなのを抑えながら、僕は彼女の目を見つめた。
○○「そんな、私こそ……」
フォーマ「○○と一緒にいると、心から楽しいと思える。 また、誘ってもいいか?」
彼女の瞳が、戸惑ったように揺れている。
返事を待つ時間を、すごく長く感じた…―。
(やっぱり、嫌かな……)
フォーマ「ダメ……か?」
○○「ダメなわけ……ない」
(○○……)
僕の心を映したかのように、雨は弱まり空が明るくなってきた。
○○「このくらいの雨なら、そろそろ歩いても大丈夫そう」
○○は、屋根から出て行こうとする。
フォーマ「……!」
(まだ、このままでいたい)
(もっと、君とこの瞬間を……)
僕は夢中で駆けだして…―。
フォーマ「待てよ!」
自分でも驚くぐらいに、彼女の手を強引に掴まえ抱き寄せていた。
○○「……!」
フォーマ「あ……」
(こんな大胆なことをしたのは初めてだ)
(顔が……熱い……)
(僕は、今どんな顔をしているんだろう?)
何かいい言い訳がないだろうかと考えるが、なかなか思いつかない。
(そうだな……)
フォーマ「……眼鏡が濡れる」
(って、僕はなんて下手な言い訳を……情けない)
彼女を腕から離して、誤魔化すように上着をかけた。
○○「フォーマ……?」
フォーマ「あ、いや……。 その……眼鏡が濡れるし、君も風邪を引いてはいけない」
(違う、僕が言いたかったのは……)
気持ちを落ち着かせるために、僕は咳払いを一つした。
フォーマ「だから、もう少しここにいないか?」
(言えた……言ってしまった)
僕の上着の中で、○○がうつむいている。
彼女の表情がよく見えない。
不安が押し寄せ、息をするのも苦しくなってくる。
(やっぱり、少し強引だったかな……)
後悔に押しつぶされそうになっていた時…―。
○○「……うん」
彼女が照れ臭そうにつぶやいた。
フォーマ「……!」
次の瞬間…―。
僕は衝動的に彼女を強く抱きしめていた。
優しい雨は、リズムよく地面を叩く。
それはまるで、僕らを祝福する曲を奏でているかのように思えた…―。
おわり