第5話 破られた結界

従者さん達が、祭りの人込みを縫うように駆けてくる…―。

従者「ヒノト様、大変です! 封印されていたはずの森が……!」

ひどく慌てた従者さんが、上ずった声で報告する。

ヒノト「封印が破られただと? なぜそんなことに」

従者「それが、詳しいことはまだ……!」

○○「封印って……?」

従者「悪さをした物の怪達が封印されてる森があって……破られることなんてないはずなのに」

その場に緊張が走り、私は戸惑いながらヒノトさんと視線を絡めた。

ヒノト「ああ……ごめんね。びっくりしたよね」

なだめるように私の頭を撫でた後……

ヒノトさんは一転して冷たい目で従者さん達を一瞥する。

ヒノト「見なよ、俺の姫が怖がってる。 全く、そんなことで神事が務まるの? 不安で仕方ないよ」

男性が相手となれば、ヒノトさんは従者さん達を厳しい声音で叱責する。

従者「はっ、申し訳ございません」

深く頭を下げる従者さん達を見下ろし、ヒノトさんが小さく息を吐いた。

ヒノト「俺はこのまま、物の怪を封印していた森へ行く。 ここにいては危ないから、君はすぐに城へ……」

○○「いいえ、私も一緒に行きます。行かせてください」

ヒノト「駄目だ。君を危ない目に遭わせるわけにはいかないよ」

ヒノトさんと話している間にも、禍々しい鈴の音が頭の芯に響いて…―。

(聞こえる……森の奥から、あの鈴の音が)

○○「鈴の音が聞こえます。私が一緒に行けば、物の怪の居場所がわかるはずです……!」

ヒノト「○○……」

ヒノトさんは端正な眉を寄せ、しばらく悩んでいたけれど……

ヒノト「……わかった。でも、俺の傍から離れないで。約束できる?」

○○「はい!」

(私も、ヒノトさんを危険な目に遭わせたくない)

思いのままに見つめると、困ったような、けれどどこか嬉しそうな彼の笑みが向けられたのだった…―。

……

ヒノトさんに導かれ、うっそうと茂る森に足を踏み入れる…―。

(今、鈴の音が聞こえるのは私だけ)

少しの音でも聞き逃すまいと、耳に神経を集中させる。

兵士「ヒノト様!」

森の入り口を守っていた兵士さんが、ヒノトさんの姿を見るなり、慌てて駆け寄ってくる。

兵士「一緒に警備にあたっていた兵士が、封印を破って森へ入ってしまい……!」

ヒノト「なんだって? どうしてそんなことを」

兵士「それが……突然、『女の呼ぶ声がする……』と、うわ言をつづやいて…―」

ヒノト「まさか、体よくサボりに行ったとかじゃないよね?」

ヒノトさんの言葉に、露骨な険が混じる。

兵士「そんな不真面目な男ではありません……!」

兵士さんは必死で弁解し、ヒノトさんに仲間の許しを請う。

ヒノト「事情はわかったよ。俺が様子を見に行ってくる。 君はここに残って、他の王子に連絡を頼む」

○○「ヒノトさん……」

私はヒノトさんを見上げ、おずおずと口を開いた。

○○「鈴の音が、さっきよりはっきり聞こえるんです」

兵士「そういえば……あいつも『鈴の音が聞こえる』と言っていました」

兵士さんの報告を受け、ヒノトさんは切れ長の目で森の方を見据えた。

ヒノト「……絶対、俺から離れないでね」

頷くと、ヒノトさんは私を連れて、森へと足を踏み入れた…―。

○○「ヒノトさん、あそこに人が……!」

ヒノト「!」

暗い森を貫いて進むと、社の傍で兵士さんが倒れているのを見つけた。

急いで駆け寄り、息を確かめると……

ヒノト「……大丈夫だよ、ちゃんと生きてる」

○○「よかった……」

兵士さんの無事を確かめ、深く安堵した時……

??「やっといらしてくれた……お待ちしておりましたわ、ヒノト様」

(今の声は……?)

顔を上げた瞬間……突風が吹き荒れ、森の木々を激しく揺さぶった。

○○「あっ……!」

吹きつける強風に煽られて、息もできなくなり…―。

ヒノト「○○、こっちへ……!」

ヒノトさんに強く腕を引き寄せられ、私はその逞しい胸に顔を埋めた…―。

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