第3話 魅惑の妖

勇壮な笛太鼓の響きが、風に乗って九曜の街に染み渡る…―。

物の怪神楽の奉納を前に、人々の合いの手が御囃子を盛り立てていた。

(今、鈴の音が聞こえたような……)

御囃子に耳をすましても、同じような音は聞こえない。

ヒノト「○○、どうかした?」

○○「今、鈴の音が聞こえたような気がしたんですが……」

ヒノト「鈴の音? 俺の衣装に、鈴がついてたかな」

ヒノトさんはその場でくるりと回って、衣装を見せてくれる。

○○「鈴はついてないみたいですね」

ヒノト「そうか。じゃあ、なんの音だったんだろう?」

ヒノトさんは周囲を見渡した後、不思議そうに首を傾げる。

○○「なんだか、少し気になります……」

ヒノト「そうだね。従者を呼んで調べてみようか」

ヒノトさんは、私の曖昧な話にも耳を傾けてくれる。

(でも……空耳かもしれないし、騒ぐのもおかしいよね)

○○「ありがとうございます、もう大丈夫ですから」

(きっと、御囃子に鈴の音が混ざっているように聞こえたんだ)

(大事な神事の前に、ヒノトさんを煩わせるわけにはいかないし…―)

○○「そういえば……ヒノトさんの衣装は、どんな物の怪の衣装なんですか?」

話題を変えるため、ヒノトさんの衣装に目を向ける。

ヒノト「妖狐ってわかるかな?」

○○「妖狐?」

ヒノト「妖狐は美女に化けたりして、時に権力者を誘惑し、国を滅ぼしたって言われてるんだ。 人間に取り憑くこともできて……その体に入り込んで、意のままに操ることができる」

○○「妖狐、ですか……。 それって、ヒノトさんにぴったりの役ですね」

ヒノト「あれ、それは褒めてくれてるのかな? 国一つくらい、滅ぼせそう?」

おどけるように、ヒノトさんが狐のお面に手を触れる。

○○「いえ、そういうつもりじゃ……!」

(ヒノトさんも魅力的で、とても綺麗な人だから……)

(妖狐という物の怪の衣装は、お似合いだなと思ったんだけど)

ヒノト「この衣装が俺にハマりすぎだって、他の王子や秘書官にからかわれてさ。 俺ってそんなに、人をたぶらかしてる感じに見える?」

ヒノトさんはすっと間を詰めて、私の顔を覗き込むように問いかける。

不意に近づいた距離に、胸が小さく音を立てた。

○○「その……たぶらかすというのとは違って……」

ヒノトさんの整った顔を間近に見つめながら、おずおずと言葉を紡ぐ。

○○「ちょっと怖いけど……でも、すごく綺麗です」

本音を打ち明けると、ヒノトさんの瞳が嬉しそうに揺らめいた。

ヒノト「ありがとう……君の言葉なら、素直に受け取れる。 でも、妖狐は俺なんかより、もっと強い力で人を惑わせるから。 俺が彼女に籠絡されたら、大変なことになったのかもね」

○○「ヒノトさんが? そんなこと……」

首を振ると、ヒノトさんは満足そうに笑みを深めた。

ヒノト「うん。俺には君がいるから、大丈夫だね」

そう言いながら、ヒノトさんは私の髪をすくうように緩く指を絡める。

(あ……)

○○「ヒノトさん、そんなこと言ったら……」

ヒノト「駄目……?」

妖しく微笑みながら、ヒノトさんが私の顎に指を添わせた、その時……

(……っ!)

再び、耳の奥に涼やかな鈴の音が響いた…―。

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