第3話 筆に込めた想い

小屋まで移動して、私達はそこで休むことにした。

窓の外を眺めると、空はもう藍色に染まり、星が瞬いている。

メディ「床が少し硬いけれど、眠れるかな? ハニー」

〇〇「大丈夫です。私もずっと旅をしてきて、慣れていますから」

メディ「それならよかった」

私が横になった場所から少し離れて、メディさんは壁に背を預けて座った。

彼は筆を取り出すと、つぎはぎの柄に指を滑らす。

―――――

メディ『……たいした物ではないんだけどね』

―――――

〇〇「……本当は、大切な筆なんじゃないですか?」

メディ「え?」

〇〇「その筆、柄の部分もつぎ足されていて、とても大切に使い込んでいるように見えました」

メディ「……ハニーはお見通しなんだね。 前に話した通り、ボクの国は芸術をこよなく愛する国なんだ。 子どもの頃は教師が何人もついて、芸術に対するあらゆることを習ったんだ」

〇〇「そうなんですか」

メディ「学ぶことはとても楽しかったけれど……なぜだろう、次第に窮屈に感じてね。 芸術とは、見たものを見たままに描くことだろうか? 技法を忠実に使いこなすことなのだろうか?考えれば考えるほど、窮屈さは増していった。 キャンバスに色を収めることが、まるでボク自身をそこに塗り固めていってしまうように感じたんだ」

メディさんは、懐かしむように筆を見下ろす。

メディ「そんなある日、ボクは我慢できなくなって、自分の思うままに筆を走らせた。 これがびっくりだよ! 次から次へと創造力があふれ出て、描き上げたその絵は、今まで描いたどの絵よりも芸術的だった。 固い殻から飛び出したような気分だったよ。 ……その時から、この筆はボクと共にあるのさ。 言わば……ボクの芸術の象徴とでも言うのかな?」

〇〇「メディさんの芸術の象徴……。 素敵ですね」

メディ「そうだね。きっとそうなんだろう。けど、それも考えものかな……」

〇〇「え……?」

メディさんの次の言葉を待ちながら、彼を見つめる。

(メディさんの本心は……)

たいしたものじゃないと言った彼の言葉の本当の意味が、そこに隠れているように思えた。

けれど、彼は筆をしまうと、私に微笑んだ。

メディ「話が長くなってしまったね! そろそろ眠ろうか」

〇〇「え……?」

メディ「今度こそおやすみ、ハニー。とびっきり芸術的な夢を」

これ以上聞いてはいけない気がして、私は目を閉じた。

(メディさん、本当は何を考えているんだろう……)

明るい彼の笑顔に、いつもはぐらかされてしまうような気がする。

(今はそれがじれったい……)

(メディさんのこと……もっと知りたい)

そう思った時、私の胸がトクンとかすかに音を立てた。

(胸が……)

やがて私は眠りへと誘われていった。

……

朝になり、私達は街までおりてきた。

街の人達は、朝日を浴びながら簡易的な家を作ったりして、今日も復興に勤しんでいた。

子ども達が、大人達に混ざり一生懸命に瓦礫を運んでいる。

(私も何か手伝えたらいいのに……)

〇〇「あの、メディさん。 宿に戻る前に、少しだけお手伝いしてもいいですか?」

メディ「キミは心配事ばかりだね、ハニー」

〇〇「すみません……」

メディ「謝ることじゃないよ。やりたいと思ったことは存分にやらないとね!」

〇〇「メディさん、ありがとうございます」

メディさんに深く頭を下げると、私は子ども達の方へ走り出した…-。

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