メディさんを追いかけ、私は森までやってきた。
枯れた木々は影を落とし、辺りが一層寂しく見える。
(メディさん、どこまで行くんだろう……?)
前を歩くメディさんは、時々立ち止まっては、足元を注意深く見つめている。
(ここって、皆と歩いた道だよね)
(何か探しているみたいに見えるけど……)
メディさんが、何かを拾い上げた。
(何だろう?)
影になってよく見えないけれど、それは何か細い棒のように見えた。
よく見ようと、つい前のめりになったその時…-。
〇〇「っ……!」
足元の枝を踏んでしまい、渇いた音が辺りに響いた。
メディ「誰だい!?」
〇〇「あ……」
隠れることもできず、私はメディさんに見つかってしまった。
彼の瞳が、驚きに見開かれていく。
メディ「ハニー!? どうしてここに……」
〇〇「あの……メディさんが出かけていくのを見て、気になって……」
メディ「……」
(ついてきちゃいけなかったのかな……)
不安になりながら、次の言葉を探していると…-。
メディ「ハニー、そんなにボクが恋しかったのかな?」
〇〇「え……?」
メディさんは困ったように眉を下げ、私に向かって微笑んだ。
メディ「きっとボクとハニーは離れられない運命なんだよ! だからハニーはボクを追わずにいられなかった!」
〇〇「えっと……」
メディ「そういうことにしておこう」
〇〇「メディさん……」
(庇ってくれてるの……?)
〇〇「ありがとうございます」
メディ「そうだね。この芸術的に美しい運命の糸というものに感謝しようじゃないか! そしてそれを、ボクは絵に描こう!」
熱く語ると、メディさんは私ににっこりと笑いかけた。
(ついてきたこと、許してくれるんだ……)
彼の優しい気遣いが嬉しくて、胸が温かくなっていく。
〇〇「あの……メディさんは、どうしてここへ?」
メディ「ああ、ちょっと落し物があってね。後でこっそり探しに来るつもりだったんだ。 何となく、この辺りかなと思っていたら、ボクの勘は正しかったよ! ほら」
メディさんは手に持っていた物を見せてくれた。
〇〇「筆……?」
それは柄の部分がつぎ足しされた筆だった。
(とても使い込まれているみたい……)
メディ「……たいした物ではないんだけどね。 崩壊に巻き込まれなくてよかったよ」
そう言って、メディさんは筆を大事そうに握りしめた。
(ここまでわざわざ探しに来たのに、たいした物じゃない?)
彼の言葉に少し違和感を覚える。
メディ「それはさておき、どうしたものかな……」
〇〇「え?」
メディ「どうやら少し、空にヴェールがかかるようだ」
〇〇「あ……」
メディさんに言われて、私は空を見上げる。
いつの間にか、赤く染まっていた空は藍色に変わり始めていた。
メディ「そうだね……ここからなら、皆で泊まった小屋が近いはずだよ。 太陽が起きるまで、しばらくそこで眠ろうか」
〇〇「大丈夫です、街まで戻って…-」
メディ「いけないよハニー。暗い夜道、キミに万が一のことがあってはいけない。 このボクがついていれば……と言いたいところだが、暗くなれば来た道も定かではないからね」
メディさんは私に手を差し出した。
(またメディさんに気を使わせているんじゃ……)
〇〇「メディさん、私……」
メディ「おおっと、もしかして執事くんが心配しているかもしれない! その時は、彼にとびっきりの絵をお詫びとしてプレゼントしよう」
(やっぱり、メディさんはとても優しい人だな……)
それ以上何も言えずに、私は彼の手を取った。
彼の大きな手から、優しさが伝わってくるような気がした…-。