第2話 気分転換のお誘い

歌声が止んで、練習はしばらく小休止に入る。

私は緊張した面持ちのシュティマさんと共に、華やかな舞台を見つめていた。

舞台の上には、セットとは思えないほどに美しい薔薇が置かれている。

(薔薇は、仮面の男が愛した花でもあり……)

(舞踏会で、運命だと感じた相手に捧げる花でもある)

シュティマさんにそっと視線を向けると…-。

シュティマ「……」

端正な横顔は、やっぱり強張ったままで……

(確か、街外れに薔薇園があったはず)

私は思い切って彼に向き直った。

〇〇「シュティマさん、あの……練習の後、お時間はありますか?」

声をかけると、舞台に留まっていた彼の視線が私へ移る。

シュティマ「ああ。晩餐会には出ないといけないけど……それまでなら」

〇〇「でしたら、薔薇園に行きませんか? 薔薇を見に……」

シュティマ「薔薇を……?」

憂いを帯びた青い瞳に、驚きの色が淡く浮かぶ。

〇〇「はい。歌劇に使われている花でもありますし」

シュティマ「確かに、薔薇は歌劇に使われているけど……」

〇〇「気分転換も兼ねて……肩の力を抜きに行きませんか?」

シュティマ「薔薇の花は、仮面の男の情熱を表すもの……」

確かめるようにそのことを口にして、シュティマさんは強張らせていた頬を緩めた。

シュティマ「……なるほど、悪くないかもしれないな。 ありがとう、〇〇。改めて、その……俺と一緒に行ってくれるか?」

〇〇「もちろんです!」

彼に少し明るさが戻ったことが嬉しくて、私は…-。

〇〇「よかった……」

シュティマ「お前に心配をかけてしまっていたな。すまなかった。 その……楽しみにしてるよ」

はにかむように微笑んで、シュティマさんが席を立つ。

シュティマ「そろそろ戻らないとな。練習が終わったら、劇場の入口のところで待っている」

シュティマさんが私の頭に手を置き、優しい手つきで撫でてくれた。

〇〇「……はい」

気恥ずかしさが込み上げてきて、ついうつむいてしまう。

シュティマ「〇〇」

ふわりと降りてきた美しい声に、誘われるように顔を上げる。

すると……

シュティマ「励ましてくれて、ありがとう。 なんでだろうな……お前にだけは、つい甘えてしまう」

〇〇「え……」

気恥ずかしそうに微笑むシュティマさんに返事をしようとした時……

舞台の方から休憩の終わりを告げる声がかかり、彼は立ち去っていった。

(胸がくすぐったい)

私は、髪に残る温もりを意識しながら、練習を再開する彼を見守った…-。

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